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 女性二人はリーズナブルなワインを注文したが、彩音によればそのワインはペアリングのものに負けず、今回のコースと相性がいいらしい。  開店から一月半で、一度メニューは変わっている。  メニューは季節変わりにしようというのが閑の意向で、まだ暑いとはいえ、九月を過ぎて秋のメニューに変わった。秋らしい食材を増やした構成になっている。  一口大のアヴァン・アミューズは小さなタルタルステーキで、生ではなく赤みの強い桃色あたりまで加熱した牛肉を細かく刻み、香味野菜と混ぜ合わせ、上にウズラの卵で作ったポーチドエッグが乗っている。  女性二人連れのお客様は「かわいい」と笑顔で顔を見合わせて、一人が僕を見上げた。 「写真撮ってもいいですか?」  僕は頷いて、シャッター音の都合で連写は遠慮してもらっていること、フラッシュは使わないで欲しいことを説明した。  食事の写真を撮ることに賛否はあるが、若い女性は発信力が高いからと、閑は写真を撮ることに好意的だ。  僕個人としては、おいしい瞬間を逃す前に食べていただきたい気持ちはあるが、お客様にここで過ごす時間を楽しんでもらうことが一番なので、口を出すことはしない。  もう一組の男女は次の皿へと進んでいた。  その頃合いで、予約の野本様が来店する。  閑は女性客か女性を連れてきてくれそうな人と彩音に頼んでいたが、今日は下見の心づもりなのかもしれない。 「野本様、ようこそいらっしゃいました。お席へご案内いたします」  どういったお客様なのか判断する経験は積んできたつもりだ。  野本様はこういう店には来慣れている様子で、接待よりはプライベートで食事を楽しみたい方のようだ。  他の二組から距離がある席に案内し、アラカルトはなくコースのみであることを説明する。
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