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週明け、定休を挟んだ火曜のミーティングは、なんとなく沈んだ空気がホールに漂っていた。
土曜が散々だったせいか、日曜は皆それを取り返すようにがむしゃらに働き、くたびれて帰宅したのが記憶に残っている。
閑と遠也は、日曜の夜は二人で残ってメニューの開発をしていたようだ。
胸のあたりが重くなった。
僕はそっと首を横に振る。オーナーとシェフがメニュー開発をしている。そんな普通のことに何かを思う自分はどうかしている。
今日はランチの営業はない。そして、ディナーの予約はゼロだ。先週のあれこれと重なって、みんなが明るくなれるはずもなかった。
そんな空気を、閑の軽い声が裂いた。
「あのさー、暗い」
頭を掻きながら、ホールを歩き回る。
「皆が暗いので、一つ決まりを発令します」
立ち止まって、閑はビシッと指を一本立てた。
「悩むの禁止令」
なんだそれは、と口には出さないが皆の表情が言っている。
「あのな、俺、経営やる。みんな、料理とサービスやる。OK?」
「なんで片言?」
彩音の言葉は無視して、閑はさらに続けた。
「だから、余計なことはしなくていいよ。
いつも通りの料理とサービスをやってくれればいい。
今客が来てないのは、みんなの料理やサービスのせいじゃない。
だから変えなくていいの。OK?」
ホールは静かで、肯定も否定の声も上がってこない。小柄なまき乃さんが、手を挙げた。
「閑の言うことはわかるし、それでいいとも思うよ?
でも現実に、お客さんは来てなくて、この店にはあたしたちの生活もかかってる。
真面目にやってれば、お客は後からついてくる、みたいな精神論じゃなくて、具体的にどうしていくのかちゃんと決めて欲しい」
閑は明るい目に勝ち気な色を宿していた。
「うん、まぁ、変えなくていいとは言ったけど、色々やってもらうことはある」
「……ランチの営業増やすとか? ランチは結構お客さん入ってるし」
彩音の発言に、閑は「それはしない」と即答した。
「レストランって結構、一日中働いて給料安いの当然みたいな空気あるけどさ、俺それはちょっと嫌なんだ。だからしない」
うちは月曜定休の他に、月末と月の初日を連続で店休日にしている。
そしてランチも営業は週二日、僕も含めてみんな、他の日のランチ営業はやれると思っていた。
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