#2

15/18

264人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
   *****  週明け、定休を挟んだ火曜のミーティングは、なんとなく沈んだ空気がホールに漂っていた。  土曜が散々だったせいか、日曜は皆それを取り返すようにがむしゃらに働き、くたびれて帰宅したのが記憶に残っている。  閑と遠也は、日曜の夜は二人で残ってメニューの開発をしていたようだ。  胸のあたりが重くなった。  僕はそっと首を横に振る。オーナーとシェフがメニュー開発をしている。そんな普通のことに何かを思う自分はどうかしている。  今日はランチの営業はない。そして、ディナーの予約はゼロだ。先週のあれこれと重なって、みんなが明るくなれるはずもなかった。  そんな空気を、閑の軽い声が裂いた。 「あのさー、暗い」  頭を掻きながら、ホールを歩き回る。 「皆が暗いので、一つ決まりを発令します」  立ち止まって、閑はビシッと指を一本立てた。 「悩むの禁止令」  なんだそれは、と口には出さないが皆の表情が言っている。 「あのな、俺、経営やる。みんな、料理とサービスやる。OK?」 「なんで片言?」  彩音の言葉は無視して、閑はさらに続けた。 「だから、余計なことはしなくていいよ。 いつも通りの料理とサービスをやってくれればいい。 今客が来てないのは、みんなの料理やサービスのせいじゃない。 だから変えなくていいの。OK?」  ホールは静かで、肯定も否定の声も上がってこない。小柄なまき乃さんが、手を挙げた。 「閑の言うことはわかるし、それでいいとも思うよ?  でも現実に、お客さんは来てなくて、この店にはあたしたちの生活もかかってる。 真面目にやってれば、お客は後からついてくる、みたいな精神論じゃなくて、具体的にどうしていくのかちゃんと決めて欲しい」  閑は明るい目に勝ち気な色を宿していた。 「うん、まぁ、変えなくていいとは言ったけど、色々やってもらうことはある」 「……ランチの営業増やすとか? ランチは結構お客さん入ってるし」  彩音の発言に、閑は「それはしない」と即答した。 「レストランって結構、一日中働いて給料安いの当然みたいな空気あるけどさ、俺それはちょっと嫌なんだ。だからしない」  うちは月曜定休の他に、月末と月の初日を連続で店休日にしている。  そしてランチも営業は週二日、僕も含めてみんな、他の日のランチ営業はやれると思っていた。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

264人が本棚に入れています
本棚に追加