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「俺はいける」
ケンシンは力強く頷いた。
閑の案はこうだった。
「月に一度、スイーツコースのランチをやりたい。
ディナーはムニュ・デギュスタシオン」
ランチは全品スイーツだけで構成したコース、ディナーは、少ないポーションで、品数がフルコースよりも更に多い、ムニュ・デギュスタシオン。
遠也はわずかに目を瞠(みは)った。
挑むような、面白がるような視線の閑が、遠也に尋ねる。
「できる?」
二人の間の空気が張り詰めた。
閑の視線を見返す遠也の目に、力がこもる。
「…………やり、ます」
「よし。まず、これは新規のお客様に来ていただくためにやるものだけど、ここから人気メニューが生まれることになったら、アラカルトを作ることも考えてる。
ケンシンは、コース全体の構成は初めてだろうけど、いける?」
ケンシンは「おう」と頷いた。
「難しいことやんのは、むしろ、燃える」
「メニュー考えるのは、かなりきついと思う。
ケンシンはこの仕事長いしルセット(レシピ)も多いだろうけど、コース全体の流れをきっちり意識してね。
ムニュ・デギュスタシオンのデザートもケンシンは普通にやることになるから、一番大変だよ。
遠也はまき姉に助けてもらって新作も作って。
でも、一品一品をとびきり特別な料理でって言うより、スタンダードなものでも、シンプルにおいしく出来る力があるのを見せて欲しい」
厨房の皆が「はい」と返事をする。閑がこちらに視線を移す。
「数種ずつ盛り合わせてサーブすることになると思うけど、それでもトータルの皿数は増える。
ワインも合わせるの難しいと思う。でも、やってくれ」
僕と彩音も頷いた。
「はい」
「はい。ねぇ、ワインは新しく仕入れてもいいの?」
彩音の質問に、閑は「あー……」と声を出した。
「メニュー開発とかワインの予算と、コース料金に対する原価はもっかいちゃんと計算してから伝える。
ワインは、海外のだと届いてから数週間は落ち着かせたいよな?
メニューの締め切りも一度ちゃんと組むわ」
閑はふーと息をついて、先ほどまでより少し緩んだ顔になった。
「まぁ、つまり今月には間に合わないので、十月末から、毎月の最終日曜をイベントにします。
……でね、今日はほら、お客さんの予約が、悲しいことに一件も入っていないわけだけども、メニューの研究に使ってください。
もし予約が入ったりお客さんが飛び入りで来たら、もちろんお客さんを最優先にいつも通りやること」
今日のミーティングが終わり、遠也たちは緊張した面持ちで厨房へ入っていく。
予約のお客様がいなくとも飛び入りのお客様や遅い時間に予約を下さる方がいらっしゃるかもしれない。
テーブルセッティングのため、クロスなどのリネン類を取りに行こうとすると、閑に呼び止められた。
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