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「肉、あとどのくらい?」
「……あー、ちょお待って下さい」
関西訛りのあるシェフの答えは曖昧で、もう一度尋ねようとすると、厨房の奥から、鍋に視線を向けたままの小柄な女性コミ(見習い)がはっきりした声で僕に告げる。
「今は肉休ませてる! 付け合わせはもうすぐ、ソースは今シェフがやってるとこ。急ぐ?」
「早めにお願いします」
「了解。ほら、返事!」
コミに促され、シェフが「んす」とかなんとか、よくわからない返事を寄越す。どちらがシェフかわからない。
「デセールまだ大丈夫だよな?」
長身で、短い髪を金色に染めたパティシエが声をかけてきた。
「この後まだメインもあるけど、比較的ペースの速いお客様だからそのつもりで」
「おう」
戻ると氷菓はあと一口というところで、今度はソムリエールに目配せした。
次はメインに合わせた赤ワインのデカンタージュがある。問題ないと表情が言っていた。
氷菓の器を下げると、厨房ではメインの肉料理に、ちょうどソースがかけられているところだった。
厨房とお客様の時間が、うまく噛み合っている。
口直しの後、お客様が一息つくであろう間を、自分も息を吐いてなぞってみる。息を吐き終えた瞬間に、完成した肉料理がシェフから僕へと託される。
料理が運ばれてくるまでの、お客様が、次を期待する時間。
長すぎても短すぎてもいけない時間が、正しかったのかどうか、それを判断するのは、料理を出した瞬間ではない。
お客様がナイフを入れて、一口目を口にした瞬間の表情。
「これは……うまいね」
自分の口角がかすかに上がるのがわかる。
お客様の言葉は料理に向けられたものだ。
でも、料理の最高の瞬間と、お客様にとっての最適な瞬間を繋ぐ仕事が、自分に出来たと思える。
オーナーがこちらを見て、口の動きだけで「完璧」と伝える。メートルとして、最高の瞬間だ。
給仕という意味では、ギャルソンという呼び名の方が通りがいいだろうか。
僕の仕事はお客様に料理を運ぶ責任者、メートル・ドテルだ。
給仕長とも訳される。規模の大きいレストランではメートルを何人も抱えているが、この小さなレストランでは、文字通りの給仕長、サービス部門のトップだった。
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