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「……うまいね」  アミューズの候補である、生の白身魚をヴィネグレットソースと和えたものがおいしくてそう言うと、遠也はくっと口元を結んで、でも視線がそわそわと動いた。  笑顔ではないが、喜んでいるのかもしれない。 「……なんか、本当に『節目』の料理だよな」  僕の言葉に遠也は「ん?」というような顔をした。 「閑が節目に使ってもらえるような店って、言ってただろ」  大切な人と、大切な時間を過ごすというと、友達とのんびり過ごすようなイメージも浮かぶが、遠也の料理はそういうただ優しくて穏やかなものとは少し違う。 「遠也の料理って……なんだろ、ピンと張り詰めてるって言うか、シンプルできれいな味だから」  閑がふふ、と笑った。 「良かったな、めちゃくちゃ褒められてるぞ、遠也」  遠也は「ぁす」と、喜んでいるのかよくわからない返事をしていた。  ――あぁ、そうか。遠也の料理に合わせて、店のコンセプトを決めたんだ。  よく考えれば料理が主役なのだから、遠也に合わせて店のコンセプトを決めることなんて当たり前だが、僕は今この瞬間に、やっと気づいた。  閑が時計を見て長い息をつく。 「あー、いったんどっかで飯食わない? 舌が変に慣れちゃいそうだから、一回遠也以外の料理食べたい」  少量ずつとはいえ、試食を重ねていたので空腹というわけではなかったが、一度厨房から出るのは賛成だった。 「……あんまり、辛いもんとかスパイス系のは食べたないです」 「わかってる。そしたら……あ、そば屋行こう」  刺激が強いもので舌が鈍るのが嫌なのだろう。閑も頷いて、軽く調理場を片付けると、徒歩で駅の近くのそば屋に向かった。
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