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 遠也も僕を見て固まっていた。 「おー、いらっしゃい」  笑顔のショウさんと僕に緩慢な会釈を返し、僕の一席開けた隣に腰掛けると、壁にかけられた本日のおすすめのメニューをじっと眺めていた。 「ほやの塩辛と、ごはんセットと、自家製あじの干物と、肉豆腐と卵焼きください。ご飯大盛りで」  昼間あれだけ食べ、そして今日一日試食を続けていたとは思えない食欲だ。  遠也はすぐにポケットからスマホを取り出し、SNSだかなんだかわからないが画面をじっと見ている。  こういうとき、職場の同僚と縁のあるお店で、まして僕も客としてきているのだから何か一言話しそうなものだが、こう思う僕の方が古いのだろうか。  こちらから話しかけてもいいものかもよくわからずチラチラと遠也を気にしていたら、ショウさんが料理を出してくれた。 「わさび漬けと煮浸しね」  言いながら出される皿を受け取って、自分の前に置く。煮浸しをつまみつつコップのビールを飲んでいたら、 「あの」  と遠也がおそらく俺に声をかけた。 「……閑さんて、なんで俺のことシェフにしたんですかね」 「そんなの……」  僕が知りたかった。  なぜ遠也を選んだのか、なぜあそこまで期待をかけるのか、どうして、あんなに楽しそうにしていられるのか。 「そんなの、遠也の料理が気に入ったからだろ?」  笑顔を作って答えても、遠也は全く納得しない。 「隼人さん何か聞いてないですか、理由」 「僕が知ってるわけないだろ」  遠也が僕を見て眉を寄せた。 「知らないって……そんなわけないでしょ」 「はぁ?」  攻撃的な遠也に、僕の声も尖る。  ぬっと、僕らの間に腕が伸びてくる。 「先に、ほやの塩辛ね」  穏やかな声に、僕らは互いに目を逸らした。ショウさんの店でもめるわけにはいかない。 「……俺は、閑さんが言うから、ゲリドン・サービスみたいなのかて」  ぼそっと呟かれた言葉は不明瞭だったが、遠也は閑の指示で意に沿わないサービスを許したと言いたいようだった。  ゲリドン・サービスというのは、ゲリドン(ワゴン)を用いて、お客様の目の前で切り分けや盛り付けを行うサービスのことだ。クレープ・シュゼットのようにフランベなどの調理を伴うこともある。  そんなことほぼしていない。と考えてから、スイカのグラニテに、僕がミルで岩塩を挽くサービスのことだろうかと思い至る。  仕上げを、他の人間に任せたくないというシェフはいる。実際に、ゲリドン・サービスを行う様な店は昔と比べてずっと減ってきている。  感情を抑えるためにか、遠也は目の前の皿をじっと見ていた。
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