#4

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 出会ったのは、高校二年の春だった。  母子家庭で四人兄妹として育った僕が、その高校を選んだのは経済的な理由からだった。  家から近い公立校。ただそれだけだ。  もっと学力の高い高校に入れと勧めてくれた先生もいたが、バイトと両立出来るか自信がなかったし、学校の勉強に追われるよりは、もっと、社会に出て役に立ちそうなことを勉強をしたかった。  その高校で、時折見かける生徒がいた。同じクラスには絶対になることのない生徒だった。  うちの高校には、調理科があったのだ。  彼はそこの生徒で、特に派手な格好をしているとか、顔が整っているとかいうわけではないのに、目立つ男だった。  向こうはきっと、僕のことなど知らなかっただろう。  僕はいつも、人のいない非常階段で一人で勉強していた。  一年の頃から定位置になっているそこは、いつも人がいない。  教室で友人と昼食を食べた後、いつものように非常階段に来ていた。  春先だけど、少し寒い。  TOEICの参考書を開く。特に英語を生かす仕事につくと決めていたわけではなかったけれど、英語は学校の勉強と重なっているので取っつきやすかったし、語学が出来て損はないような気がしていた。  階段に腰掛けて、頻出の熟語を確認していると、背後でドアが開いた。  振り返って見上げると、ドアを開けた人と目が合った。  調理科の、なぜか目を引く彼だった。
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