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しばらく、その目を見つめてしまう。
日陰の中でも瞳が明るいのが不思議だった。
「あ、ごめん。邪魔?」
尋ねられて、そっと目をそらす。
「いや、別に」
「ちょっとここいてもいい?」
「別に、僕の場所じゃないし」
そう言って参考書に視線を戻すと、「それもそっか」と、彼はなぜか僕の隣に腰掛けて、何をするでもなく壁にもたれて目を伏せていた。
「ねぇ、委員長」
「……は?」
唐突な呼びかけに思わず隣を見ると、向こうは目を伏せたままだった。
「委員長じゃ、ないんだけど」
「あ、マジで? ずっと委員長だろうなって思ってた。真面目そうだから」
薄く目をあけて、彼がこちらを見る。
僕は目を逸らした。
驚いたのだ、彼が自分を認識していたなんて思わなかった。
「テスト前以外にも勉強するの?」
「これ学校の勉強じゃないよ」
「えっうそ、すげー」
それからしばらく黙ったかと思うと、また「その参考書なに?」などとどうでもいいことを話しかけてくる。
予鈴が鳴って、僕が立ち上がると、彼が座ったまま僕の手首をゆるく掴んだ。
僕を見上げて、視線を落とし、また見上げた。
「……名前、教えて」
「……瀬田、隼人」
「俺、大村閑」
彼はまだ手を離さずに、目を逸らしてぼそりと零した。
「……また、ここ来てもいい?」
「別に、僕の場所じゃないし」
またそう答えると、手首を、きゅっと握られた。
「きてもいい?」
「……いいよ」
するりと彼の手が離れて、僕は非常階段を出て、教室へ戻る。
彼の手の温かさが、中々去らなかった。
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