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それからというもの、閑は時折非常階段にやってきた。
何が気に入ったのかわからないけれど、勉強する僕の横でどうでもいい話をしたり、そんなことが続いた。
ポツポツと互いのことを話すうちに、彼がここに来る理由を知った。
「何かね、重いの。
周りに好かれてんのは嬉しいんだけどね、こっちはそれ同じ重さじゃないから。
あと、俺っていうか、俺っぽさが好きなんだよ、みんなは」
彼は周囲から好かれていたけれど、それをひどく冷めた目で見ていて、周囲の人間関係にわずらわしさを感じることも多かったようだ。
「……僕もここに来るの控えようか」
「えぇ? 何でぇ!?」
大げさに驚く閑にちょっと眉をしかめて言い返す。
「一人になりたいんだろ?」
「隼人はいーの」
そう言って僕の肩にもたれた。
「重い。あつい」
そう言うと笑って肩にぐりぐりと頭を押し付けてくる。閑はスキンシップが好きだった。
春に知り合ってから、僕たちはもう夏服に変わっていた。
日差しがどんどんきつくなって、夏が迫ってくるころ、僕の手に握られているのは参考書からアルバイトの情報誌に変わっていた。
夏の間に短期のアルバイトを入れて、できれば家にもお金を入れたかった。
今のコンビニのバイトの他に、今までと違う仕事の経験も積んでみたかった。
閑が僕の肩にもたれたまま、情報誌を覗きこむ。
「……隼人、バイト探してんの?」
「うん」
そのまま閑が静かになったので、それで話は終わったと思っていた。
予鈴がなって立ち上がろうとした時に、閑が、僕の肩に腕を回して押しとどめた。
「ちょっと、授業遅れる」
「俺のバイト先……どう?」
それに頷かなければ、僕の人生は何もかも違っていたはずだ。
でも、高二の夏休みは、今でも忘れられないくらい楽しかった。
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