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   *****  雑居ビルの地下への階段を下りるとある、隠れ家みたいなビストロは、いつも賑わっていた。  本当なら、お客様と接するホール担当に、高校生を雇ってくれるような店ではなかったと思う。  実際、店主である旦那さんは僕の採用を渋っていたが、なぜか接客担当の奥さんは僕を雇ってくれた。  テーブル席がメインの店だが、奥にはカウンターが四席、カウンターからはキッチンが見える。 「慣れてきたみたいだな」  八人で予約していたお客様と二名のお客様が帰り、お客様のいない時間が出来た。  皿を下げてきた僕に、店主のヒロさんはそう言ってくれた。 「ありがとうございます」  閑は奥の水場で、僕が下げてきた皿をずっと洗っていた。 「まだぎこちないですから、もう少し頑張って」  きれいなアルトの声と同時に後ろから両肩にぽんと手を置かれて、僕は気恥ずかしさで少し肩をすくめた。 「はい」  神妙な顔で振り返ると、豊かな金茶色の髪をきれいに結い上げた、マダムのシュザンヌさんが笑顔を見せてくれた。 「でも、お水のおかわり、お客様が声かける前に動けましたから、 そこすごく良かった」  アクセントや言い回しに外国の癖が残っている。ヒロさんがフランスで修行していた時に出会って結婚したそうだ。  マダムのふっくらした丸いお腹には、赤ちゃんがいる。  妊娠初期は友人に手伝いを頼んでいたそうだが、その人も家の事情などが重なり続けられず、新しい人を探していたところだったそうだ。
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