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そうして雇ってもらうことになったが、僕の仕事はもっぱらマダムの補助で、最初はテーブルのリセットと、皿を下げるくらいしかできなかった。
失敗も沢山した。
そのたびに、マダムが僕をフォローしながら、常連のお客様たちと僕との間を繋いで、「高校生のバイト」を「新しく入った瀬田隼人」に変えてくれた。
自分のテーブルに僕を付けて勉強させてやってくれと言ってくださるお客様もいて、今では水を注ぐくらいのことはさせてもらうようになった。
マダムは、特に親しい常連さんや閑からは「シュザさん」と呼ばれて慕われていた。
ただ一度来ただけのお客様でも必ず顔を覚え、いくつものテーブルの注文と食事の進み具合を完璧に把握し、いくら忙しくても泳ぐような優雅さでホールを回る姿に感嘆した。
すごいと思ったし、憧れた。
でも、最初はサービスの仕事の楽しさを感じていたわけではない。
「さ、ハヤト、テーブルの準備しましょう」
声をかけられて頷いた。先程皿を下げたテーブルを、お客様を迎えられる状態に整える。
ちょうどお客様が入り、マダムが席に案内する。
常連のお客様だった。マダムがとったオーダーをヒロさんに伝える。前菜、メイン、デザート、そしてビールとグラスワイン。
ヒロさんがひょいと眉を上げた。
「キャロットラペか」
今日、ラペを注文したお客様は初めてだった。
マダムは常連さんに呼ばれ、趣味の話に笑顔で耳を傾けている。
「…………話の邪魔してシュザンヌ呼ぶのは嫌だから、
隼人、前菜運べるか」
サーブを任せてもらうのは、初めてだった。
緊張感と高揚感で勝手に背筋が伸びる。
「それとな、ラペ、閑が作ったやつだから、
お客さんの反応見といてくれるか」
「……! はい」
鼓動が速くなり始めた。
閑は高一の頃からずっとここでアルバイトをしている。
それでも、バイトを始めてから今まで、閑の仕事は皿洗いと仕込みの手伝い、野菜類の下ごしらえがほとんどだった。
閑がすべて作ったものがお客さんに出されるのは、今日が初めてだ。
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