#4

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「……閑はすごいな」  友達も多くて、才能があって、努力もしていて、何より夢がある。  コンビニの側に停めた自転車は、きれいな淡い緑色のクロスバイクで、高そうなそれは、親からの誕生日プレゼントだという。  彼がバイトしているのは、僕と違って金銭的な理由ではなく、純粋に勉強のためだった。  閑は、絶対にプロの料理人になるだろう。  高校二年生の夏、家庭も学校も、僕らに未来を夢見ることを強いる。  まだ誰にもわからない卒業後の自分を、進路指導の小さな用紙に書き込まなければいけない。  第一希望、第二希望、第三希望と、将来の可能性に優劣をつけて。 「なにー? どうしたの?」  閑はふざけるように僕の頭に手を伸ばして、後ろ頭を梳いた。  髪に触られるのは初めてじゃない。閑は人の髪に触るのが好きらしかった。 「あのさ、本当に、うまかった」  彼の目を見ると、照れたように逸らされた。「そうかなー」といつもよりずいぶん小声で呟いていた。  閑の携帯が短く鳴って、彼は僕の頭から手を離して画面を眺める。 「彼女?」  その問いへの閑の返事は、アイスを口いっぱいに頬張っていたから、もごもごしていた。 「普通に親。別れたし」  普通科の女子と、春のあたりは付き合っていたはずだ。何度か話を聞いたことがあった。  閑は目立つ。  周りにはいつも人がいて、飛び抜けて格好いい訳ではないけれど、多分それなりにモテるのだと思う。  彼は「俺みたいなのって収まりがいいんだよ」とわかるようなわからないようなことを言っていた。 「なんで別れたの?」 「……何でって、まぁ、俺流されてたから、 そういうのもう嫌だなって思って」 「ふーん」 「隼人は、流されなさそうだよね」 「僕を流そうとする人がまずいないよ。なんか、未練とかないの?」  残り少ないアイスを口に入れると、閑は星の見えないぼんやりとした夜空を仰ぐ。 「んー、俺あんまりそういうのない。 思い出とかもなー……初めて最後までした相手とかは、さすがに覚えてるけど」  今度は唐揚げを取り出して、一口食べた。 「初めてって忘れないもん?」 「試してみる?」  僕の質問に閑がそんなことを言って笑う。意味がよくわからなかった。
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