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「は?」
「俺とキスしてみる?」
「何でだよ。しないよ」
そう答えると「ふはっ」と笑って、また唐揚げを頬張る。
「だって、隼人に忘れられたら困る」
「お前みたいなの、そう忘れないよ」
「そお?」
そんなことしなくたって、あの料理だけで、僕は多分閑を忘れない。
「……俺、今日は記念日だなぁ。
もちろん、ヒロさんのレシピなんだけどさ、
それでも、やっぱり嬉しかったなぁ」
そのときに感じたうれしさをしっかりと噛みしめるみたいに、閑は言葉にしていた。
「おめでとう」
「うん。しかもさ、隼人が運んだじゃん。
……俺、あれすっごい、心強かった」
そうだろうか、僕はただドキドキしっぱなしだった。
「運ぶとき、結構、緊張した」
「うん。なんていうの、一緒に緊張してくれる人が運んでくれるの、
心強いなって思った。
緊張してるのがいいって訳じゃなくてー、なんだろ」
閑の言おうとしていることがわかる気がした。今日僕が気づいたことと、似ている気がした。
「僕、今日初めて料理運んで、
でもなんか、それだけですごいことだって思ったよ。
今までは、サービスってお客さんのことばっかり考えればいいって思ってたけど、
同じくらい、料理のことも考えなきゃいけなくて……
だから、お客さんと料理の、真ん中にいるんだな、って」
僕もうまく言葉に出来なくて言いよどんでしまう。
でも、閑は僕の言葉にしっかり頷いた。
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