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閑の明るい目を見つめた。
「この仕事……、楽しいな。今日、すごく、嬉しかった」
閑が、ちょっと驚いた顔をした。
いつも自分より先を進んでいるように見えた閑のその顔が、自分と同じ年にしか見えなくて、僕はその表情に見入った。
閑は僕を見たまま、目を輝かせて何度も頷いた。
「そうなんだよ。……すげー、楽しいの」
閑の手が、僕の手に伸びて、子供みたいにぎゅっと握る。
そして緊張した顔で地面を見て、僕を見た。
「隼人」
閑の緊張がつないだ手から僕に伝わって、なんだか胸のあたりが狭くなる。
「俺の料理、隼人が運んでよ」
その時の、蒸し暑さも、握っていたペットボトルの冷たさも、空気の匂いも、いやに鮮やかだった。
「いいよ」
今日感じた嬉しさを、僕は僕の夢にしてみたかった。
閑の料理を運んだ時に感じた喜びを、紙に書き込んで大人に見せたりしないで、自分の心の中に夢として持ってみたかった。
その答えに、閑は一度ぎゅーっと目を伏せた。
その後、帰り道が分かれるまで、閑はクリスマスまであと何日か尋ねる子供みたいに「本当に?」「ねぇ、さっきの本当?」と訊いてきて、僕が頷くたびに幼い表情をして笑った。
僕も、頷くたびに嬉しかった。
僕と閑が本当の意味で親しくなったのは、きっとこの日からだったと思う。
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