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長い食事が、プチフールの小さなカヌレとコーヒーで締めくくられる。
オーナーはゆったりと座る吉澤様に期待するような、挑むような視線を向けた。
「うまかったろ?」
「思ってたよりはましだった」
「うまいって言ってただろ、メインの時! 全部食ってたじゃん。ブログ頼むよマジで」
吉澤様のオーナーを見る目は冷たい。
「宣伝はしないよ。嫌いなやつの店宣伝してやるほど、お人好しじゃない」
「そんなこと言う? 呼んだら来てくれたのにさ-」
吉澤様は肩をすくめた後で、片頬だけで笑った。食事中よりもずっと、冷たい表情だった。
「どんなことやってるのか笑いに来ただけだから」
オーナーを無視するように背を向けて、一度も見向きしなかった僕と視線を合わせた。
「あんなやつがオーナーじゃ、いい加減な経営で店を潰すか、飽きて店を閉めるかどちらかでしょう。
転職先なら紹介しますよ。サービスは悪くなかったから。
お名前、何でしたっけ」
オーナーに当てつけるためだけの言葉だった。
腹が立たなかったと言えば嘘になる。
それでも、まだ、彼はお客様だ。
「瀬田隼人(せたはやと)と申します。
お言葉はありがたいですが、今のところ転職の予定はありません。
吉澤様、またのお越しをお待ちしております」
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