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 平日昼の駅前は、案外人が多かった。  腕時計を確認する。今日は仕事に行く前に、人と会う約束をしていた。  すでについたことを伝えようとスマホを取り出したところで、きれいなアルトが僕を呼んだ。 「ハヤト!」 「マダム」  ハグをして、両頬にビズをする。  周囲の人たちが僕らをチラチラと見ていたが、僕は気にしない。  マダムが、自分が昔からずっとしてきた方法で、僕に親愛を示してくれることの方が大切だった。  シュザンヌさん、僕が閑と勤めていたビストロのマダムだ。 「ご無沙汰してます」  その言葉に、彼女は不安そうな顔をした。 「そのことだけど……、あぁ、後で話しましょう」  マダムはそう言って手を振った。  マダムは昔より更に日本語が流暢になって、知り合ってからの時間の流れを感じる。  予約していたカフェに案内する。  僕がドアを開けて彼女を先に通すと、マダムは僕を褒めるように小さく頷いた。二人でランチを注文した。 「開店前のご挨拶以来ですね。百合(ゆり)ちゃんは元気ですか?」 「元気。でも最近は反抗期ね」  僕らが高二の終わりに生まれた娘の百合ちゃんは、もう中学生になる。  マダムに似て賢そうできれいな少女だ。  僕は帰国してからは節目ごとに夫妻を訪ね、娘の百合ちゃんとも挨拶をしていた。  閑も開店前には一度挨拶に行っていたようだ。  しばらく一家の近況についての話を聞くうちに、注文したランチが出される。プレートにキッシュやサラダ、チキンとスープが乗っている。量が多かっただろうかとマダムを見るが、特に問題なさそうだ。
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