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「隼人?」  呼ばれて見上げると、シャワーを浴びたばかりの閑が僕の前に立っていた。  下着姿で、肩からタオルを掛けていた。髪の先から水が滴って、肌の上を流れていく。  細身に見えるが、体力のいる仕事をしている閑の体は締まっていた。  コクッと自分の喉が動いたのがわかる。それをごまかすように俯いたら、閑は僕の方に体を向けて隣に座る。 「隼人、考え事してた?」 「……こっちに、来たばっかりの頃のこと」  閑の毛先からぱたぱたと水滴が落ちるので、僕はタオルを閑の頭に被せてガシガシと拭いてやる。 「もっと優しくして!」  ふざけた口調で抗議してくるが、閑の目は笑っている。 「びっちゃびちゃで出てくるなよ」 「……こっちに来た頃のさ、あれ恥ずかしかったでしょ? ごめんな」  言われて何のことか思い出して笑いが漏れる。 「ちょっとね。でもまぁ、それで店に早く馴染めたから」 「どうしたってはしゃいじゃうよね。 本当に来てくれるって思ったらもう、めちゃくちゃそわそわしてさ」  僕がこの店に初めて来たとき、なぜか周囲の人たちが「お前か」という反応をしていて、ひどく不思議だった。  マダムが以前勤めていたレストランの上司やその知り合い、そして僕が前に勤めていたレストランの上司にも頼み込んで紹介状をもらっていたので、そのためかと思っていた。  今思うと前の店の上司が二年で辞めた若造にそこまでしてくれたのは本当にありがたいことだった。  実際の所、なぜ僕が他のスタッフに知れ渡っていたかと言えば、閑が僕が来ると決まってからというもの、ことあるごとに「あと何日で俺の相棒がくる」「日本でずっと一緒に頑張っていた奴がくる」と言っていたからだった。
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