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 髪を拭く合間に、閑が僕の目元や額、頬に口づけてくる。 「隼人がドゥミ・シェフ・ド・ランになってすぐ、 バカンス時期で死ぬほど忙しくて、 俺も魚担当になったばっかりで……お互いその日、褒められたんだっけ? もうワーキングハイになって部屋に帰ってきてさ」  深く口づけられた。幾度もついばんでから、離れていく。 「初めて、キスしたんだよな。こんな風に」  互いの目がわずかずつ、熱を帯びていく。 「違うだろ?」  僕はそう言って閑の口角に口づける。 「僕のこと壁に押しつけて、 ここにキスしてから『いいよな?』って聞いてきたんだよ」 「……それで、隼人はどうしたんだっけ?」  雄っぽい笑みを見せた閑が僕を見つめる。  閑だって決して忘れていない。  同じことをさせたいだけだ、あの時と。 「返事しなかった」  しなかったが、僕は自分から噛みつくようにキスをした。  あの日をなぞるように、目を開けたまま閑の唇に噛みつく。  閑の目元が何かを堪えるように険しく歪む。その目が伏せられて、互いの動きが貪るものに変わっていく。 「んっ」  侵入してきた彼の舌のぬるりとした感触に自分の舌を絡める。  粘膜を擦り合わせる感触は、互いの間に漂う空気を更に生々しく熱っぽいものに変えていく。  Tシャツの裾から閑の手が入り込む。  湯上がりの少し湿った手のひらがひたりと僕の肌に押し当てられて、やわやわと脇腹をたどっていく。 「……っぁ、は」  キスの合間に漏れた声が、恥ずかしいほど濡れている。  あばらのあたりまでずり上がってきた閑の手の親指が胸の突起をかすめた。 「――っ!」  声を出さずに目をきつく閉じて堪える。  息を吐きながら目を開くと、閑の欲情した目が僕を食い入るように見つめていた。
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