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「……隼人、ごめん」  眉尻を下げた閑が近づいてきて、僕の肩に腕を乗せる。  口を噤んだままの僕に、困ったように笑いかける。  嫌だ。 「ごめん、俺干渉しすぎた。許して」 「嫌だ」  いつもこうだ。閑とは話し合いにならない。  閑が何か言って、僕が怒って、閑は僕に呆れたように笑って謝ってくる。  嫌で嫌でたまらなかった。 「本当にごめん」  閑に抱きしめられて、唇を重ねられた。 「ごめんな」  普段は二人で、それなりに愉快に暮らしているのに、仕事の話になるといつもこうなってしまう。  生活というプライベートな部分と仕事が混じり合う度、僕らは諍いになる。 「ね、しよう?」  耳元で尋ねられて、僕は首を振って閑の腕から抜け出して背を向けた。 「したくない」 「ねぇ、しよ?」  後ろからきつく抱きしめられる。  僕は抵抗しようともがいたが、ぎゅっと腕を回される。 「い、やだ、閑」 「おねがい。だって、喧嘩したままとか嫌だし、仲直りしよ?」 「嫌だ」  しばらく背後の閑が黙り込む。機嫌が悪くなったのだろう。  彼はゆっくりと、僕の首筋に唇を這わせた。  こんな時でさえ、甘ったるいおののきが肌を伝う。  閑とのセックスは好きだ。  でも、彼は時々、しつけるように僕を抱いて、それが怖かった。 「……はやと」  嫌だ。  閑のこれは、そんな仲直りのような生やさしい言葉で言えるものではない。
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