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荒い息の合間に、湿った水音が響く。
ベッドに這わされて、後ろから閑を受け止めていた。
「……っ」
絶対に声を上げたくなかった。
だが、慣れた体は湧き上がる快楽を抑えられず、歯を食いしばって堪える。
ふっと耳元で笑われ、肩がすくむ。
「隼人…、お腹ん中、気持ちよくなっちゃった?」
必死で首を横に振る。
「嘘ばっかり。お前ほんとかわいいね」
掠れた声と共にぐっと奥を突かれてのけぞりそうになるのも、声を上げそうになるのも、必死でこらえる。
「わかるだろ? ここ、俺のこれ大好きなの。
ほら、ちゅうちゅう吸いついてきてるのもさ」
「……っあぁ」
ゆっくりと腰を引かれて僕はついに根を上げた。
自分のそこがざわめいて、出て行こうとする閑を引き留めるように締め上げる。
「奥がいい? 浅いところめちゃくちゃにされたい?
隼人のきもちいことしよ」
俯いた目頭から涙が伝う。僕はまた首を横に振る。
閑はこうやって、僕にわからせる。
いくら衝突しようと、同じ立ち位置で彼と争おうとしても、結局閑に触れられれば僕が屈服してしまうことを。
閑が僕に与えているのは甘く掠れた声の睦言、もどかしいほど優しい指先、とろけそうな快楽だけだ。
それでもこれは、僕を屈服させる行為だった。
僕の体も声も、そうしたくないのに閑に勝手に媚びてしまう。
「い、やだ……」
「嫌がってる、声じゃないよ……。ここっ、好き?」
快楽に熱い息を吐きながら閑が僕を責め立てる。
「あ、あ!」
目を固く閉じて、早く行為が終わることを願った。
体を重ねて、恋人とさえ呼べないいびつな関係を続けて、いつまで僕らは一緒にいられる?
僕はただ、閑に追いつきたかった。
閑と対等になりたかった。
だから、仕事の方がずっと、ずっと大切だった。
僕らにとって確かなことは、閑の料理を僕が運ぶという約束一つじゃないか。
――僕は、閑の隣にいたいだけだ。
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