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#9
十月末のスイーツコースと、ムニュ・デギュスタシオンが、もう目前に迫っていた。
経営が上向いてきているのは、このイベントへの期待感からお客様が増えたことも大きい。
絶対に、成功させなくてはいけない。
ホールに、サービスと厨房双方が集まり、当日の流れのリハーサルを行っていた。
「で、スイーツコース終わったら、
厨房は即ディナーの準備に移るから……」
当日一日の流れとランチとディナーのメニューを記した用紙を、僕とケンシンで覗きこむ。
「あぁ、ディナーのデセールは、
時間おいて作るものと、温度管理がしやすいものを多くしてる。
けど、コースから浮くの嫌だから、遠也っぽいっつーか、
ある程度温度差とか、加熱の具合とか意識した奴も……、これだな」
「まぁ、ここまで来れば次の料理とのタイミング計る必要ないから、
サービスはそこまできつくないはず」
「ディナーも、アミューズ系は何品か、作っておけるもん入れてますよ」
遠也も僕の側に寄ってきて、紙を眺める。人数分プリントしてあるのだが、自分の分を見てくれない。
ケンシンが顔を上げてまき乃さんを見る。
「昼の営業終わったら、皿は全部、俺が洗います。
まき乃さんはディナーの準備した方が効率いいっすよね?」
まき乃さんもとことこと僕の側に来て、僕は全員が見えるように近くのテーブルに紙を置いた。
まき乃さんがメニューの一点を指さした。
「そうだねー。
作業的にこのあたりのタイミングで立て込んでくるから、
できれば調理だけやりたいかな」
同時に出す料理でも、それぞれ調理時間が違う。
いくつも作業が重なり合う部分がどうしても出てくる。
「アミューズ数点盛りにして、皿数減らした影響出てますね……」
「んー、でも、これ以上皿増やしたら、サービスが無理になるでしょ」
みんなから少し離れて、当日のワインリストを確認していた彩音がぼそっと言った。
「次からでいいんだけど、
スイーツコースとムニュ・デギュスタシオンは別日にしない?」
客席に腰掛け、のんびり僕らを見つめていた閑が顔を上げた。
「ごめん。でも来月の分、もう予約始まっちゃってる。
……みんな目が冷たいね、再来月からそうする」
「再来月て、
十二月末なんてただでさえクリスマスで死ぬほど忙しいですやん」
「ごめん! 頑張ろ!」
閑が声の大きさだけで誤魔化した。
僕らはため息をついて紙に視線を戻す。
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