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 十月末のスイーツコースと、ムニュ・デギュスタシオンが、もう目前に迫っていた。  経営が上向いてきているのは、このイベントへの期待感からお客様が増えたことも大きい。  絶対に、成功させなくてはいけない。  ホールに、サービスと厨房双方が集まり、当日の流れのリハーサルを行っていた。 「で、スイーツコース終わったら、 厨房は即ディナーの準備に移るから……」  当日一日の流れとランチとディナーのメニューを記した用紙を、僕とケンシンで覗きこむ。 「あぁ、ディナーのデセールは、 時間おいて作るものと、温度管理がしやすいものを多くしてる。 けど、コースから浮くの嫌だから、遠也っぽいっつーか、 ある程度温度差とか、加熱の具合とか意識した奴も……、これだな」 「まぁ、ここまで来れば次の料理とのタイミング計る必要ないから、 サービスはそこまできつくないはず」 「ディナーも、アミューズ系は何品か、作っておけるもん入れてますよ」  遠也も僕の側に寄ってきて、紙を眺める。人数分プリントしてあるのだが、自分の分を見てくれない。  ケンシンが顔を上げてまき乃さんを見る。 「昼の営業終わったら、皿は全部、俺が洗います。 まき乃さんはディナーの準備した方が効率いいっすよね?」  まき乃さんもとことこと僕の側に来て、僕は全員が見えるように近くのテーブルに紙を置いた。  まき乃さんがメニューの一点を指さした。 「そうだねー。 作業的にこのあたりのタイミングで立て込んでくるから、 できれば調理だけやりたいかな」  同時に出す料理でも、それぞれ調理時間が違う。  いくつも作業が重なり合う部分がどうしても出てくる。 「アミューズ数点盛りにして、皿数減らした影響出てますね……」 「んー、でも、これ以上皿増やしたら、サービスが無理になるでしょ」  みんなから少し離れて、当日のワインリストを確認していた彩音がぼそっと言った。 「次からでいいんだけど、 スイーツコースとムニュ・デギュスタシオンは別日にしない?」  客席に腰掛け、のんびり僕らを見つめていた閑が顔を上げた。 「ごめん。でも来月の分、もう予約始まっちゃってる。 ……みんな目が冷たいね、再来月からそうする」 「再来月て、 十二月末なんてただでさえクリスマスで死ぬほど忙しいですやん」 「ごめん! 頑張ろ!」  閑が声の大きさだけで誤魔化した。  僕らはため息をついて紙に視線を戻す。
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