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   *****  ついにやってきた当日、僕は緊張とともに、嬉しい思いで予約リストを眺めていた。  新規のお客様が多く、特にスイーツコースはそれが顕著だった。  ディナーの方はリピート客もいて、先日名刺を下さった椚木様に、予約をいただいた。  緊張する。  不安になる。  厨房の料理をおいしいまま届けられるだろうか、お客様にとっていいタイミングで手渡すことができるだろうか。  トッ、トッ、と速くなっていく脈拍は、不安以外の感情も僕に気づかせる。  期待と、喜びだ。  この仕事をやり遂げたときの充足と感動を、僕は知っている。  時間を確認する、もうすぐ、ランチの営業時間が始まる。  厨房は既に仕込みの仕事を始めている。 「これから開店です、よろしくお願いします」 「ウィ」  厨房の空気が引き締まる。  入り口に向かうと、閑と目が合う。  僕は頷いた。  ただ、ここでの仕事を、全力でやる。  もうそれだけでいい。  自分がサービスの仕事から離れてこなかったことに気づいたとき、きっと腹が決まったのだ。  ――やり抜こう。  今日は忙しくなる。
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