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「野ウサギのロティです」
野ウサギはフランスでは一般的なジビエだ。
ただ、癖があり、肉が硬く、さらにはパサつきやすい。
だからこそ調理にかなり気を遣うが、野性味が消えてしまっても面白くない。やっかいな素材だ。
でも、
「おいしそうね」
お客様の言葉に笑顔を返す。
皿の上の料理を見ているだけでわかる。
この難しい食材が、どれほど完璧な出来上がりになっているか。
――これは閑のスペシャリテになる。
デクパージュは、見て楽しいというだけではない。
調理してから熱が冷めないうちにお客様のもとへ届けられる。
メートルは、そのおいしさを絶対に損ねずにサーブする。
デクパージュは、食材の構造を料理人と同じだけ知っていなくてはできない。
優雅な身のこなしで、だけど真剣に、僕はロティを切り分けて皿に盛り付ける。
口に運んだお客様の、目が輝く。
驚きに近い、笑顔。
「これ……」
「うん、すごくおいしい」
サービスを終えて静かにテーブルを後にする。
胸が熱い。
やっぱり、閑の料理はすごい。
食べた人を、いつだって楽しませ、喜ばせる。
今僕は料理とお客様の間に立って、その手伝いができた。
大丈夫だと思った。
サービスのトップにはまだなれていないけれど、ここまで来られた。
閑と今日、話し合える。
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