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家に帰ってから、僕はソファでずっと閑の帰りを待った。
何もしないで、ただずっと待ち続けた。
いつもより更に遅く、やっと部屋のドアが開いた。
もう寝ていると思ったのだろう。閑はひどく驚いた顔をしていた。
「お帰り」
「…………ただいま」
閑は、それ以上何も言わずに僕の前に立った。
「あの、さ、閑……」
何から話せばいいのかわからない。
仕事の上で、ちゃんとパートナーになりたい。僕の話も聞いて欲しい。まだ追いつけていないけれど、でも、ちゃんと僕だって色々と考えているんだ。
言いたいことはたくさんあってうまく言葉にならない。
「閑」
「うん」
じわっと、涙が滲んだ。
閑の右手にそっと触れる。
やっと口にできたのは、たった一つだけだった。
「頼むから、一回病院行ってくれ。心配なんだ」
閑は、静かに僕を見ている。
「心配なんだ。
閑は料理が好きだから、料理人の仕事が好きだから、
僕はそれを知ってるから……だから、体を大事にして欲しい」
声は震えたけれど、涙はこぼさずに済んだ。
「わかった」
しっかりと目を合わせて頷くと、閑は僕の前に跪く。
「隼人、今日……俺の部屋、来てくれる?」
いつものように僕を従わせるような意図はなく、彼の目にはただ切実な光だけがあった。
「お願い」
彼の右手に触れていた僕の指先を、閑がそっと握った。
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