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シャワーを浴びて湿った自分の髪に触れた。
閑の部屋に入るのは久しぶりだった。
閑は基本的にいつも、僕の部屋でしたがったし、そうでなければソファやバスルームでそういうことになることもあった。
そんなどうでもいいことを考えて緊張感から意識を逸らす。
どうしてだろう、なぜかものすごく緊張する。閑も、いつもと様子が違った。
そっと、ベッドの上に倒された。
その手がいつもより優しくて、その目がいつもより切なげで、僕は確かめるように閑の顔や背に触れた。
それに、いつもと違って、閑はずっと僕の顔を見ていた。
互いの体に触れあって、互いの体を熱くしていく。
その間、何の言葉も交わさなかった。
喘ぎと吐息の合間に、ただ名前を呼び合った。
正面から、体を繋ぐ。
閑が、不安そうな、さみしそうな顔で僕を見ていて、いつも顔が見えないときに、こんな表情をしていたのだろうかと考えたら、僕までなんだかさみしくなって、閑を抱きしめるように背中に腕を回す。
「のど、か……」
閑が、僕を見ていた。
「はやと……隼人、…………好き、だ」
驚いて目を瞠る。
開いた目がじわっと熱くなって、ぽろっと涙が零れる。
「……僕、も……っ、す、きだ。ずっと、閑が」
「好きだ、すき、隼人……好きだ」
互いの気持ちを言葉にしたことも確かめ合おうとしたこともない。
それに、彼への気持ちを言葉にしたら何と呼ぶのかを考えたことすらなかった。
でも、一度溢れてしまえば、それはとても簡単なことだった。
ずっと、閑が好きだったのだ、僕は。
「好きだ、好き……あぁ! っ、のどか、すき」
「本当に、好きだよ」
涙が止まらない。
切なくて苦しくて、胸が痛くてどうしようもないのに、幸せだった。
やっと、追いかけ続けてきた閑に、触れられた気がした。
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