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狭いアパートに帰り、そのままドアを背にずるずると玄関に座り込む。
自分の頭を抱えた。
ル・シエルで働き始めたのは、閑と同じように、自分も過去のことなど気にしていないからだ。
今後はただのスタッフとしてつき合えると思ったからだ。
――違う。
閑にそう思わせたいというただの見栄だ。
「……はは」
掠れた自嘲が漏れた。
――それも違う。
本当は、過去を気にして、この先を期待していた。
もう一度、閑とやり直せるんじゃないか、そんな浅ましい思いで仕事をしていた。
僕は、閑欲しさにこの店に来たんだ。
それを見抜かれていた。
苦しくて涙が零れる。
僕はサービスの仕事が好きだ。
そして、まだ閑が好きだ。
この仕事が好きなのも、閑とやり直したい気持ちがあるのも嘘じゃない。
だけど、閑に好かれるために、メートルの仕事を利用していると思われるのだけは耐えられなかった。
でも、もし閑にそんな風に扱われたら、きっとそうなってしまう。
閑の歓心欲しさに仕事をするようになってしまう。
そうなったら結局、いつか両方失って終わりだ。
僕を知らず支え続けてくれたこの仕事まで失ったら、もう何も残らない。
僕は、袖口で涙を拭った。
この想いごと消し去りたかった。
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