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#11
スイーツコースとムニュ・デギュスタシオンはいい結果に終わったと言えるだろう。
やっとお客さんの数も安定してきた。
「このまま軌道に乗せたいねぇー」
閑がため息交じりに言って、ちぎったバゲットを口に入れる。
日曜のランチ営業を終え、まかないを食べながらみんなで話していた。
今日は赤ワイン煮込みとサラダ、バゲット、マッシュポテト。
量が多いのは、遠也がまかない担当だからだ。
「SNSで見たデセールが食べたいっていう問い合わせ結構あるのよ」
「スイーツコースのか?」
ケンシンが閑の方を向いて尋ねる。
「うん、基本的に、うちはコースのみで、
現在のデザートはこうですっていうのを説明してるんだけど、
やっぱりソティはSNSの方にコメントつく形で聞かれるね」
「店で食べる皿盛りのデセールじゃないとできないからなぁ。
次回のスイーツコースにも入れるか」
僕は二人の話を聞きながら、遠也が山盛りのマッシュポテトを次々腹に収めていくのをちょっとした感動とともに見ていた。
むしゃむしゃと食べるのではなく、すっ、すっ、と、口に運ばれて消えていく。
「あんまり問い合わせ多いようなら、
予約の時言ってくれたら出すか、ランチのコースに組み込む?
アラカルトメニュー作るのはまだ早いかなって思うんだよね。
メインと前菜でアラカルトにのせるものが決まったわけでもないし」
遠也の眉がきゅっと寄った。
さすがにお腹いっぱいになったのだろうかと思ったら、今度は煮込みをもぐもぐ食べている。
何で太らないのか不思議で仕方がない。
「コースには組み込めねぇだろ。あの皿だけ浮く」
「いや、それは俺もわかってるって。
だから、
その場合はコースのうちの何品かもそこに合わせて組み替えるとかさ。
もちろん既にあるルセットからになるけど。遠也はどう思う?」
遠也は顔を上げて、一口水を飲む。
「閑さんはどうしたいんですか」
ケンシンが険しい顔になる。
「閑に聞く前に、お前はどうしたいんだよ。シェフはお前だろ」
「…………でも、お客さんは食べたい言うてるんでしょ」
ケンシンがいらだった様子で目を伏せる。
「無しだ、無し。
ソティはコースには入れない。
来月のデセールコースには入れる」
「俺、駄目とか言うてませんけど」
「『でも』ってことは、嫌なんだろ。
シェフがブレたら店はうまくいかねぇ」
ガチャッと、遠也が乱暴にカトラリーをおいた。
「……じゃあ、今はメニューに入れないで下さい。
12月からの冬のコースに組み込むかどうか考えてみます、
それか、来月のムニュ・デギュスタシオン」
そしてさっきより乱暴に皿の料理をかき込み始める。
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