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   *****  ムニュ・デギュスタシオンは、通常のランチ・ディナーのコースメニュー、前回のムニュ・デギュスタシオンの中から、評判がよいものや遠也自身の自信作を組み込むことで落ち着いた。  しかし、メインがまだ決まらない。  メインを以前からあるルセットにすることは、遠也がかたくなに拒んだ。  そのため、ランチとは違い、今回はディナーメニューをSNSに上げることが出来ていなかった。  決まっていないのはメインだが、そこに合わせて他の料理に微調整が入る可能性もある。  お客様がいざ来てみたら写真と違う、という事態は絶対に避けたい。  遠也が頑ななのは、アラカルトメニューに入れられるようなメインを作りたいからではないか、というのが僕たちの予想だった。  アラカルトで前菜とメインが出せるようになれば、ケンシンの料理を無理にコースに組み込まなくてもアラカルトのデザートの一つとしてメニューに載せられる。  あるいは、あれがもう一度食べたいと言われたケンシンへのライバル心に近いのかもしれない。 「おつかれーお先にー」 「おつかれさまー」 「お疲れ様」  まき乃さんと彩音はタイプが違うがすっかり仲がよく、きゃいきゃいと楽しそうに話している。 「まきさん、今日おんじゃくいこうよー」 「えーあたしラーメン食べたい」  まき乃さんと彩音の二人が連れだって帰って行くのに挨拶を返し、顧客カードの記入を続ける。彩音が注文のあったワインなどについては記入を済ませていた。  ――初めてのお客様が多かったからなぁ。  名前、特徴、食事中の様子などを記入していく。珍しく予約のないお客様もいらしたので、名前がわからない分細かい特徴も記入していく。  大体書き終えて、服を着替える。  ケンシンが厨房から出てきて、私服に着替えていく。  多分、ケンシンは結構おしゃれな方なのだろうが、どうもヤンキーっぽさがあるというか、僕から見ると年の割にオラついている感じが否めない。 「仕込み、もう終わったんだ?」 「あ? おう、つーか最低限やって明日に回すって感じだな。 遠也が厨房つかってっから」 「そっか」  鞄を持ち上げたら、不思議そうな顔をされた。
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