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SCENE 11 路地
マサヤは言われたとおりに左手のビルに飛び込んだ。
イーゴリを抱きかかえている。彼は父とあんなかたちで離れてしまったからか、青ざめ、まるで固まってしまったかのような表情をしている。胸が痛んだ。
焦げ臭い……。急ブレーキによる路面とタイヤの摩擦の臭いが、未だに鼻についた。顔を顰め、ビルの入り口に身を隠しながら様子を見る。
ジープから素早く降り立ったダイゴがラズを手招きする。
勢いをつけてジャンプするラズ。そして、身を屈めたダイゴの肩を蹴る。
ダイゴはラズの動きに勢いをつけるよう、グンッと身体をバネのようにして伸ばす。
小柄なラズが、大きく飛び上がる。ビルの壁面をキックし、非常階段の手摺りを鉄棒代わりにつかい、隣の倉庫の庇に飛び乗った。銃を手に持っている。
な、なんて運動神経だ! 唖然とするマサヤ。猫? 猿? それともサイボーグ?
ダイゴはジープの下に潜り込む。小銃を構えながらだ。
トラックが猛スピードで追撃してきた。2台縦に並んでいる。
ジープが停車しているのに気づいたのか、徐々にスピードを落とす。
射程内に入ったとたんにダイゴが発砲した。
前のトラックの前輪がふっとぶ。キキーっと軋み音を立てながら大きく蛇行したトラックがビルに激突する。
マサヤ達のいる場所も、地震のように揺れた。イーゴリの身体が微かに強ばり、怯えている事がわかった。この子はほとんど声を出さない。大丈夫だろうか、と心配になるマサヤ。
後ろから来たトラックが、前のトラックに追突しそうになる。運転手は慌ててハンドルをきったのだろう、勢い余って逆側の倉庫に正面衝突した。
どちらのトラックからも、荷台にいた荒くれ達がこぼれ落ちていく。そこへ、ダイゴが小銃を乱れ撃ち、たちまち血飛沫と悲鳴があがった。
トラックの後に逃げて体制を整えようとした男達には、上からラズが銃撃。一人一人正確に射殺していく。
残り僅かとなったとき、ラズは連中のまっただ中に飛び降りていった。
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