SCENE 95 トラック~建設中のショー・パブ マサヤ イーゴリ

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 イーゴリのブルはマサヤを見下ろした。動きを止め、首を傾げる。明らかに戸惑っている。そして、急に頭を抱えるようにした。イーゴリの意識とブルの意識が激しく行き交い、どちらが優位になるかせめぎ合っているようだ。  マサヤは必死に語りかけた。  「イーゴリ、戻ってくるんだ。君は人間なんだ。地球の人間なんだ。今は、普通の姿でいるのが一番いい。戻っておいで。気持ちを落ちつけて……」  マサヤはいったん彼から離れると、荷台に置かれていた煙草型香草をかき集め、できる限り火をつけた。その煙や香りを、イーゴリのブルのまわりに漂わせていく。   イーゴリのブルが頭を抱えながら、グルルルゥ……と小さな呻き声をあげている。  マサヤはポケットをまさぐった。マリートゥヴァから貰った水晶を取り出す。  「さあ、イーゴリ。落ち着いて、ゆっくり息を吐いて、吸って。そして、これを見るんだ。君は、人間に戻るんだ」  水晶をかざすようにするマサヤ。イーゴリのブルが視線を向けてきた。  「落ち着いて、イーゴリ。少しずつでいい。思い出すんだ、自分のことを。自分の本当の姿を……」  優しく語りかけていく。  イーゴリのブルが、戸惑いながら水晶とマサヤとを交互に見る。マサヤが頷くと、視線は水晶に吸い寄せられるようになっていった。  すると、イーゴリのブルの身体が、次第に小さくなっていく。  そう、それでいい。戻っておいで、イーゴリ。  マサヤはジッとその光景を見続けた。
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