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SCENE 12 占術師の館
世界公園の海側と陸地側から程よく離れた中央付近には、貧しいながらも普通に暮らす人々がいて様々な生活品を売る、商店街があった。
荒くれ者や悪徳に染まる連中も、そこでは外と変わらないようにすごしている。そもそも、貧しいから流れてきた人々や、曰くがあって通常の暮らしはできない者達の街だ。強盗や詐欺を働いてもたいして金になるような場所はない。喧嘩などのトラブルはあるが、世界公園の他の場所に比べれば平和だった。
そんな商店街の片隅に、朽ち果てた大木のような雰囲気を醸し出す館があった。
柳は一人、その扉を開ける。
「誰だい? こんな夜に」と奥から声。館同様、朽ち果てそうな、年老いた声だ。
「あんたがмолитваか?」
柳が質問を投げかけた。
「先に名乗りな」
老いた声のままだが、口調が鋭く変わる。
「すまんな。柳という。柳コーポレーションを預かっている者だ」
「ふうん」暗がりから姿を現しながら、老婆が言った。「この街の悪党の中でも、悪い順に数えた方が早い男だね」
「そいつは残念だな」
「何が?」
「一番じゃない」
フッと笑う柳。歩を進め、室内を見まわす。
「ふん……。確かに私がマリートヴァだが、何の用だい?」
皺にまみれた顔からは歴史が感じられたものの、姿勢はしっかりしている。長身の柳に比べると頭一つ低い背だが、それでも女性としては大きな方だろう。黒地に赤い幾何学模様のマントを羽織っていた。
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