SCENE 12 占術師の館

1/3

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/386ページ

SCENE 12 占術師の館

 世界公園(ワールドパーク)の海側と陸地側から程よく離れた中央付近には、貧しいながらも普通に暮らす人々がいて様々な生活品を売る、商店街(ストリート)があった。  荒くれ者や悪徳に染まる連中も、そこでは外と変わらないようにすごしている。そもそも、貧しいから流れてきた人々や、(いわ)くがあって通常の暮らしはできない者達の街だ。強盗や詐欺を働いてもたいして金になるような場所はない。喧嘩などのトラブルはあるが、世界公園(ワールドパーク)の他の場所に比べれば平和だった。  そんな商店街(ストリート)の片隅に、朽ち果てた大木のような雰囲気を醸し出す館があった。  柳は一人、その扉を開ける。  「誰だい? こんな夜に」と奥から声。館同様、朽ち果てそうな、年老いた声だ。  「あんたがмолитва(マリートヴァ)か?」  柳が質問を投げかけた。  「先に名乗りな」  老いた声のままだが、口調が鋭く変わる。  「すまんな。柳という。柳コーポレーションを預かっている者だ」  「ふうん」暗がりから姿を現しながら、老婆が言った。「この街の悪党の中でも、悪い順に数えた方が早い男だね」  「そいつは残念だな」  「何が?」  「一番じゃない」  フッと笑う柳。歩を進め、室内を見まわす。  「ふん……。確かに私がマリートヴァだが、何の用だい?」  皺にまみれた顔からは歴史が感じられたものの、姿勢はしっかりしている。長身の柳に比べると頭一つ低い背だが、それでも女性としては大きな方だろう。黒地に赤い幾何学模様のマントを羽織っていた。
/386ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加