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「あんた、占い師なんだって?」
「預言者だよ。ついでに占いもやる。気が向いたら呪術も使うが、何がお望みだい?」
「ロシアから流れてきたのか? 使うのはロシアの占術か?」
「ロシアの北、寂れた集落にいたよ。そこで大火球の熱と衝撃に巻き込まれて、力を得た」
「ツングースカ大爆発のことか? よしてくれ。それは百何十年も前の話だ。いくら何でも、あんたが生まれているはずはない」
「父の話さ。私はそれを引き継いだ」
「そうか。それは、素晴らしい遺伝だ」
柳の足下を、一匹の猫が横切っていった。珍しい赤毛の猫だ。奥の部屋へと消えていく。柳は視線でそれを追った。
「そっちの部屋は部外者立ち入り禁止だよ」マリートヴァが視線さえも許さないというような口調で言った。「あんたがどれほどの力を持っているか知らないが、あっちに足を踏み入れたら、たたじゃすまないよ」
「心得ておくよ。妙な猫が入っていったが、それは平気なのか?」
「あんたよりはましな生き物だからね」
「なるほど」と肩を竦める柳。
「で、何が望みなのか、さっさと言いな」
「教えてくれ。この街に災厄が来ると言ったそうだが?」
「残念ながら、それはもうはじまったらしいね」
「どんな災厄だ?」
「詳しいことはわからないよ。ただ、たくさんの血が流れる。まあ、ほとんどは薄汚れた血だけどね」
「祖国、つまりロシアから来ると言ったそうだが?」
「ああ、そのようだ。私のルーツと繋がっているような気がする」
「ルーツ? ツングースカ大爆発?」
「同じ波動を感じる。もうすぐ、とんでもないものが姿を現すよ」
ふむ、と首を傾げる柳。この老婆は、恐らく何らかの力を持っているようだ。だがそれは、柳が利用できるものではないらしい。
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