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彼はカードに書いてあることを読み上げる。
「えーと“隊長のモノマネ”?」
「ははっ、いきなり難易度高いな!」
「俺はできるぞ!」
笑う富野くんの隣で金子くんが胸を張った。
「次のカードは“語尾『だっちゃ』で24時間過ごす”」
「おおっ、それ温井くんにやらせてみたいな」
「え~、24時間はキツイですって」
金子くんに言われて、温井くんが口をへの字に曲げた。
「それから次、“裸エプロンでお茶を配る”」
「裸……?」
「エプロン?」
金子くん、富野くんの目がソワソワと泳ぎだす。
「女性がいなくてよかったですね。これ、完全にセクハラ……」
温井くんが苦笑いでつっこむけれど、違う。その2人が想像しているのはたぶん……。
「温井くん、それやろう!」
「……えっ?」
「大丈夫だ、俺たち3人しかいない!」
「俺もいる」
二匹の狼がそでを引くのを見て、俺は思わず横から口を挟んでしまった。
だって、温井くんが危ない。
「あれ、北畠さんもトランプやる気になりました?」
温井くんがにこにこ顔でこっちを見る。
そうじゃない、可愛い恋人を人前で裸にしたくないだけだ。
「北畠さんが裸エプロンで乗ってくるとは思わなかった」
言いながら金子くんがトランプを配り始めた。
ものすごい誤解だ。
「じゃあ俺、エプロン取ってくるね! 確かこのカードのそばにあったんだ」
富野くんがそそくさとバーを出ていき、罰ゲーム“裸エプロン”は確定事項になってしまった。
頭が痛い。が、俺がゲームに介入し、温井くんの負けを阻止すべき事態だ。
俺は磨いていたグラスを置き、彼らの輪に加わった。
*
富野くんが戻り、トランプでの戦いが始まった。
ゲームはババ抜き。温井くんは俺のカードを取り、金子くんにカードを引かせる位置となる。
「ババ抜きかあ、苦手なんだよな……」
温井くんがつぶやいた。
しかし大丈夫だ。今ジョーカーは俺が持っていて、これを温井くんに引かせなければ彼が負けることはない。
「えーと、次は僕か」
温井くんの手が俺のカードへ伸びてきた。
彼の指がジョーカーの上を素通りし、別のカードへ。
(よし、そっちのは安全だ)
ところが行った指が戻ってきて、あろうことかジョーカーをつかんでしまった。
「!」
取らせまいとカードを強くつかむ。
「北畠さん? 引かせてください」
「温井くん、考え直せ……!」
「ちょ、北畠さん必死ですね? そんなに温井くんを脱がせたいんですか」
富野くんが呆れ顔をするけれど、違う! 逆だ! おまえらと一緒にするな!
(ああっ!)
そっちに意識が向いた瞬間に指の力が緩み、温井くんにジョーカーを抜き取られてしまった。
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