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金曜夜――。
南極唱和基地の小さなカウンターバーでは、隊員たちがのんびりとした時間を過ごしていた。
カウンターテーブルには車両担当の金子くん、庶務の富野くん。カウンターの内側には調理担当の温井くんがいて、3人はトランプゲームを楽しんでいる。
それから隊長とドクターがまったりとウィスキーを飲んでいたが、彼らは今しがたバーを出ていってしまった。
俺、バーテン役で海洋生物学者の北畠 海人は、特にすることもなくグラスを磨いている。
もう普段ならバーを閉める時間だ。
しかしまだ、トランプの面々が解散する気配はなさそうだった。
今、南極は極夜の期間で、昼間もうっすらとしか日が射さない。つまり1日中夜だ。
みんなの体内時計もおかしくなっている。
温井くんが欠伸をかみ殺す音が小さく聞こえた。
「北畠さんもトランプやりましょうよ~」
自分は眠いくせに、なぜか温井くんは俺を誘ってくる。
「いや……、俺はあんまり」
「えー、北畠さんが入ってくれないと僕ばっかり負けます」
そうなんだ、さっきから彼は負けてばかりいる。
「俺が入れば温井くんは負けない?」
「う、そう言われると北畠さんにも勝てる気がしませんが……」
「あがり!」
「俺もあがり! また温井くんがビリだね」
金子くんと富野くんが次々とカードを置き、温井くんがしょんぼりと肩を落とした。
ちなみにこのトランプの弱い温井くんと俺は密かに想い合っている。
目がキラキラと光ったり口をぽかんと開けたりと、表情が分かりやすすぎるのが敗因のひとつだ。
そういうところが恋人としては魅力的なんだけれど……。
そこで金子くんが金色の髪をかき上げた。
「そろそろ飽きてきたな」
「そうだね」
富野くんも太めの体を揺らして同意する。
(よかった、これで負け続きの温井くんも解放される)
そう思っていると……。
「あ、いいこと思いついた!」
「なに?」
「待ってて」
富野くんが席を立ち、どこかから束ねたカードらしきものを持ってきた。
「じゃじゃーん! これ見て!」
「なんだそれ?」
「なんですか?」
金子くん、温井くんの2人が食いつく。
「罰ゲームカード! 倉庫で見つけたんだ。前の隊が置いていったものだと思う」
「へー、面白そう」
「でしょ!? 次に負けた人はこのカードに書いてある罰ゲームをするっていうのはどう? ちょっとは盛り上がるでしょ」
(それって、トランプ苦手な温井くんに不利なんじゃ?)
雲行きが怪しいと思ったけれど、温井くん本人は興味深そうにカードを手に取っていた。
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