あなたを絶対(社会的に)殺します!

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鳳凰寺慎一郎。 世界的に有名な鳳凰寺財閥の御曹司で私が明日結婚する相手。 そして、とんでもクズ野郎。 顔面と外面はものすごくいい。お見合いで婚約者にまでなった時には奴の写真を友達に自慢しまくった。しかし「美人は3日で飽きる」とはよく言ったもので、半年後の私が彼の写真を見ると無だ。虚無。むしろ怒りすら湧いてくる。鼻毛でも書き足してやろうかこの野郎。 プレゼントもくれるし、会いたいと言ったら予定を変更してでも会いに来てくれた。少女漫画から飛び出してきた王子様かと思ってた。実際にはクズだったんだけど。 結婚するまで、つまり今日まで私は人生最高に幸せだった。ピークは多分明日の結婚式。そこからは落下するだけだった。落下どころじゃない。夫婦初日どころか結婚式終了後からジェットコースターもビックリの勢いで落下していった。 私にとって半年前の時……結婚式が終わり、2人でホテルに泊まった時だ。 ホテル最上階、高級スイートルームの一室。 「綺麗な夜景ですね。慎一郎さん」 このセリフを言ったところまでが私の人生最高の幸福のピークだった。本当にピッタリこのセリフまで。 それからは、落ちるだけ。 「んなことどーでもいいよ。それより俺、もう出ていっていい?」 「はい?」 世界が一瞬、静止したかと思った。 何を言ってんだこいつ。 そう思った。 「だーかーら。結婚も終わらせたんだから、もういいだろ?」 もういいってなんですか。つーか結婚を「終わらせた」? 「俺は、親父に無理矢理見合いをさせられたの。ちょーどお前がバカそうで扱いやすそうだから選んだだけ。いやーキツかったぜ。なんとも思ってない女を愛してるフリって」 これは悪夢だろうか。 視界がグラグラと揺れる。 「お前みたいな平々凡々な女。俺が相手にするわけないだろ?まぁ、いい夢が見れたとでも思って俺に感謝しろよ。お前みたいな女、俺みたいなイケメンに相手されることなんて一生なかったんだろうからなぁ!」 そこからは衝撃のあまり、記憶がない。 気がついたら翌日になってた。 今思い返しても腹が立つ。 ビンタの一つでもかましてやりたい衝動に駆られ、箸にグッと力が入る。 あの時点で相当に落下したけど、まだまだだった。 むしろここからが本番だった。 翌日、ホテルの食事の際にも奴は現れなかった。 昨日のセリフはどういうことか問いただしたかったのに。 そうぼんやり思いながら、ホテルの庭園を一人で散策する。 すると、見つけたのだ。奴の姿を。 慌てて声をかけようとその背を追う。 それが間違いだった。 グラビアの表紙にでもなってそうなナイスバディの女性を想像してほしい。それが昨日結婚したばっかの旦那と熱烈にキスをしていた。 「ン…ねぇ、あなた。昨日結婚したんでしょう?」 そうですよ結婚しましたよ。だからそのデカい乳当てるのやめろ。 「結婚なんてただの契約だ。あんな女のことなんて、気にしなくていい」 よかねーよ気にしろよ。 ドラマで痴情の縺れで相手を刺したりするのを見て、バカだなぁと思ってた。そんなことしなくても、話し合えばいいじゃないかって。 でも今は違う。 人生において未だかつてこれほどまでに殺意が湧いたことがあっただろうか。いや、ない。 バイバイ純粋無垢だった私。こんにちは殺意の波動に目覚めた私。 これでも、愛してたのに。 涙がこぼれた。 声を殺して泣く私になんて気付かず、彼らは2人だけの世界と言わんばかりにイチャついていた。 それが、新婚初日の出来事、最悪な結婚生活の幕開けだった。 ボキンッ あまりの怒りで手に力を入れすぎ、箸が折れた。 妹がギョッとした顔で私を見てくる。その視線すら気にならないほど私は怒っていた。 あんのクズ男、一発痛い目に合わせないと私の気が収まらない。 これはあまりに可愛そうすぎる私に、神さまがくれたプレゼントなのだろう。 だったら全力で使ってやるしかない。 殺人は罪だ。たとえどんなに殺してやりたくても、こっちが加害者になる。 だったら、社会的に殺すしかないよね? 私の平凡な人生をぶち壊してくれたあのクズを、絶対社会的に殺してやる!
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