革命の余韻

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俺達が一丸となり、腐ったこの国の政治を変えてから5年。他の同士達はそれぞれ変わったこの国で自由に羽ばたいている。俺は、何もできていない。あの頃から何も変わっていない。今、一人暮らしには広すぎるこの部屋を見渡すと“あの頃„が一番輝けていたと思う。ぐるぐると意味の無い議論を繰り返す政治家達に、自分が呼び起こした仲間達とこの国を巡る戦いを挑んでいた頃。戦いといっても、武力でこの国の首をすげ替えては意味がない。デモ活動、若い世代への選挙呼び掛け、外国の革新的政治家との共闘。様々な才覚者を集め、長年に渡り腐り続けてきた政治を撤廃した。選挙で新しい政治家が集まった、新しい政党が大勝したときの嬉しさは言葉に出来ない。初期から活動を続けてきた俺達“コア・メンバー„は、また政治の新陳代謝を悪くするだろうから引退した。新しい風が吹き抜ける活力に満ちたこの国では今この時も、“コア・メンバー„は活躍している、俺以外は。女優になった奴もいれば、奇才の陶芸家として世界に名を轟かせている奴もいる。比べて俺は何も成し遂げていない。行動すらしていない。それ以前にやる気が湧かない。俺は小さな頃から政治に興味があった。政治にしか興味がなかった。だから革命を起こした。革命を起こさないと、自分が何者かすら分からなかった。俺は所詮、非日常でしか輝けない人種なのだろう。まるで映画の主人公だ。映画はエンドロールに入れば終わりだが、俺の人生は後数十年続く。はぁ。溜め息を付いてみる。無駄に広い部屋に陰気が広まっていく。だが、体の中の陰気は延々と湧き続ける。ずっと溜め息を付いていないと可笑しくなりそうだ。気分がゆるゆると堕ちていく。駄目だ、このペースでまた1日が過ぎていく。切り替えよう。のっそりと重い体をやわらかいソファーから浮かす。足をぺちぺちとフローリングの床につけて歩く。行く先はベランダだ。ガララ。窓を開けると涼しい風が入ってくる。外は曇っているものの、この部屋よりは何倍もましだ。手すりに寄りかかり、煙草を咥える。腰ポケットに手を伸ばすと空だ。ライターが無い。もう煙草を吸う気分は消え去った。煙草をケースに戻す。禁煙しようと思ってたしちょうど良い。革命を終えてから喫煙量が何倍にも増えた。体に悪いのは分かってる。吸い過ぎると依存してしまうのも分かってる。でも、全国で何年も演説し続けてきたこの口は寂しがりやだ。気づくと煙草を無意識に咥えてる。まあ、長く生きても辛いだけだしな。なんて自暴自棄な事を考えてみる。あの頃は自殺する人の思考は理解できなかった。今は分かる。現状が不満で、でも変えられる程の力を持ち合わせてない時、もうどうしようもない時、死んでもよくなる。はあぁぁ。大きく溜め息を付き空を見上げる。無駄に高い場所にあるマンションだから、視界全てが曇り空になる。視界の端で鳥が飛んでいる。鳥は楽しそうだなぁ。俺も自由に羽ばたきたい。いや、羽ばたいていたい。羽ばたき続けていたい。はぁ。また、溜め息を付く。付かないとやってられない。ライター、多分使いきったかな。買いに行くか。部屋に戻り、コートを羽織って財布をポケットに滑り込ませる。ガチャリ
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