武者衆

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

武者衆

「さすがは畠山将軍が陣。見事な陣構えです」  遅れること半刻(はんこく)、馬に乗った侍衆(さむらいしゅう)が高台に現れた。中央に輿(こし)があり、日輪(にちりん)御旗(みはた)を左右に高く(かか)げ、鬼陣(きじん)を見下ろしている。   「ハッ! 姫ぎみ、お褒めいただきこの畠山、恐悦至極(きょうえつしごく)にて(そうろう)」 「はい……それで……あの、先陣を切った若武者は……」 「ハッ (それがし)が孫の鋼丸です。本日の一番槍を頂いております」 「そうですか。すると、もしあの鬼に勝てば……侍衆となるのでしょうや?」 「左様ですな。働き次第では」  ひとりはこの地域の武者を統括する畠山東次(はたけやまとうじ)。もうひとりは領主の娘、山城守静江(やましろのかみしずえ)である。   「くだらない。全くもってくだらないことだ」 「やめておきなよ翔英(しょうえい)くん。親方様に聴かれますよ?」 「紫苑(しおん)。分からないのか? 俺は聴こえるように言っているつもりだが」 「ふむ。謀反ですかな? されば斬らねばなりませんが」 「ふふふ。やれるものなら是非ともに。だがな、あれは中級、いや上級の鬼だろう。俺たち侍衆の獲物だ。鬼陣を敷いているとはいえ武者衆(むしゃしゅう)には荷が重かろうぞ」 「そうでしたね。翔英はあの者……鋼丸とは馴染みでありましたね。しかし、どうやら静姫さまも鋼丸のことが気になるご様子」 「……わかっている」  静江の乗る輿の前方には、何人かの武者衆がいた。護衛である。そこに侍衆の世羅翔英(せらしょうえい)如月紫苑(きさらぎしおん)の姿もあった。  武者衆で功を上げたものが侍衆となり、侍衆の中からさらに侍大将がいて、その上が侍将軍である。   「ふむ。それでも、案外、鋼丸もやるではないですか」  ――タァ~~~ハァッ  鋼丸は背に回した剣に全体重を乗せると、体ごと回し、袈裟(けさ)斬りにした。   「グッ」  鬼は棍棒でそれを受けたものの、受けきれず、片膝をつきついには(コウベ)を垂れた。   「ふ、ふはははは~。そこにそのままなおっておれ! さすれば今すぐ楽にしてやるぞ!」  肩で息をしていながらも鋼丸は、それを悟られまいと強がった。そうしてゆるりと歩き、鬼に近づき、その首筋めがけて剣を振り上げた。その時―― 「あっ、愚か者が! 油断するな!」  翔英が叫ぶと同時、鬼は大きく伸び上がった。鋼丸は飛ばされ、高く跳ね上げられた。それを見上げた円陣の武者衆の首は、つぎの瞬間、胴から真っ二つとなり吹き飛んでいた。    ――シュババババ  ズッ ド――――――ンッ  篝火がかき消されると、あたり一面、煙が舞い上がった。陣容も鬼の様子も見えやしない。 「陣を敷け! 鉄陣だ!」  紫苑が叫ぶと部下たちは即座に鉄の盾を大地に突き刺し、隙間から槍を、鬼陣があった方に向け、突き出した。守りに徹した鉄壁の鉄陣である。翔英と紫苑はその盾の外に陣取り、煙の方に目をやっている。 「た、助けてくだせーい……」  煙の中から抜け出したのは鋼丸だった。鋼丸は煙から飛び出すと一目散に鉄陣のほうへ駆けてきた。翔英の眼前に達すると、軽く会釈をしてすり抜けようとした。    ―― シュパ  ンッ  しかし、次の瞬間。鋼丸の首もまた、胴体から切り離されていた。翔英が斬ったのだ。 「な、なんでだよ……しょ、翔ちゃん……」 「キサマに翔ちゃんと呼ばれる覚えはないゾ」  翔英が鋼丸の首を斬った刀を振ると、刀についた血が吹き飛んだ。その血は大地に触れるとジュワッと音をあげ煙となった。 「それにだ。(はがね)は助けなど求めない! この鬼めが! よくも鋼を喰らったな! 容赦せん!」  翔英にしては珍しく、怒りを隠しもせず鋼丸……だったソレを粉微塵に斬り裂いた。   「翔英、もうよいでしょう。十分だ」  その剣は紫苑が止めるまで止まることはなかった。 「あ、ああ……すまん紫苑。だが……鋼……約束は果たしたぞ」  鋼丸だったソレには油が撒かれ、たちまちに燃やされた。   「あっぱれであった! 翔英!」  丘の上から声がする。鋼丸の祖父、畠山東次の声だ。  だがしかし―― 「な、なんということ! お、鬼が! 鬼がぁああああ!!!」  次に叫んだのは静江であった。  静江は叫ぶと、その場に泣き崩れてしまった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!