ペーパー エフェクト ─ちりしくん編─

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外出自粛二ヶ月目の昨日、 『紙無(かみない) 知利史(ちりし)どの』 勤め先から一通の文書が送られて来た。 そこには長年世話になっているオーナーの手書きで、 『感染拡大による営業自粛、、、資金繰りが悪化し、、、やむなく店舗を閉鎖、、、(何とかかんとか)』 堅苦しくも簡単な説明の後、 『今月分の給料も払えなくなった、、、(なんちゃらかんちゃら)、、、申し訳ない』 と綴られていた。 「給料が、、、払えないぃぃ?」 オーガニック素材を使った本格派レストラン事業とは名ばかりで、農家出身のオーナーが数店舗を経営するだけの小さな会社だったから無理もない。 が、 「どうしよう、、、」 大きな街の小洒落た洋食屋でシェフ見習いとして働いていた俺は突然、事実上の無職無給となってしまった。 一呼吸おき、現実を受け入れるべく再び眺めた通知の最後に、 『給付金がおりたら未払いの給料を払った上で店も再開したい。 それまで何とか耐え忍んでくれ。 詫びと言っては何だが偶然にも俺の後輩が お前に沿う条件の仕事を持ちかけてきた。 営業自粛で通えなくなったハウスキーパーの代わりだそうだ。 期間限定の仕事だが、募集要項添付しといたから、よかったら連絡してみないか』 「、、、、」 恨みようもないこの文面からは、父親のように俺を育ててくれたオーナーの想いが伝わってくる。 ー 母子家庭で5人兄弟の長男。 中学の頃からバイトで世話になって高校卒業と同時に俺を雇ってくれた。 『自立しろ』 と、店に近いアパートを寮として借りてくれたのも、調理師の免許を取らせてくれたのもこのオーナーだった。 『お前は勝ち気な性格だけど、苦労してる分 (あった)かみがある』 横柄な客に平気で物言う俺を笑って受け止めてくれる器の持ち主。 俺は期待半分で紙をめくった。
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