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数日後の今朝、
早速ビデオ面接の運びとなっての身支度だった。
面接担当の黒八木さんは、事前に入力した
俺の学歴や調理経験、それに志望動機などにはあまり触れず、代わりに家族構成、独り暮らしの年数やなんかを訊いて、やはり事前に送ってくれたウィルス検査キットでの陰性を確認すると、即内定をくれた。
さすがは天命。
霊験灼かなること この上ない。
んが、
人生何事も未知なるウィルスと初めての仕事に油断はできない。
「黒八木さん。
俺がトレーニングする『相手』は一体どういう方で、生活トレーナーというのは、、、」
黒八木さんは軽く咳払いした後、
「対象となる方は巻神 有芯29才。
予備知識としてお伝えしますと、
『巻神カンパニー コンサルティング部門
統括部長』。
今回紙無さんを直接雇用するのはお父様である巻神社長。
ですが、仕事をして頂くにあたり、それぞれの立場は関係ありません。
あくまでも一父親が仕事中毒の息子に干渉する、というものですから」
顔を少し緩め、俺に微笑んだ。
「まぁ、それは建前でしょう。
社長の策略みたいなものですね」
「はあ」
「生活トレーナーとは、日常生活を営むうえで必要となる具体的な行為や技術を教え、助けるものです。
つまり掃除洗濯、料理に始まり、自身のケア、人とのコミュニケーションなど。
あなたが日々普通にしてきたことを、してこなかった相手にさせる。
簡単でしょう?
初日のノルマにしても有芯さん宅に潜り込み、彼を外に連れ出して買い物をする。
それだけなのです」
黒八木さんの笑顔が曇る。
「彼はある事情から半年前に実家を出、現在ご自分で購入されたマンションにこもって仕事をしています。
家事は全てハウスキーパー任せ。
これまでは別段問題ではなかったのですが、この度のパンデミックにより、ほぼ全ての家事代行サービスが営業を自粛してしまいました。
これを機にお父上でもある社長は有芯さんに仕事ばかりの毎日から脱して欲しいと思っているのです。
ですが肝心の本人は仕事以外の事に一切興味がない。
ハウスキーパーが通えなくなってからすでに数日経ちますが、食事はどうしているのか、、、。
おそらくケータリング、それも日に一食程度のことでしょう。
自身で料理などしてるとは思えません」
画面越しに身を乗り出した黒八木さんは、
急に声を抑え、
「と、我々が心配していたところへ紙無さん、あなたという人材が現れた。
おかげで社長の期待値はマックス。
特別に『推し札』も用意してくれてますから、たとえ拒まれても遠慮せずグイグイいっちゃって下さい。
手始めが買い物ですから、次は掃除、洗濯、料理へとステップアップして頂きましょうか。
給与は基本給と、各ステップのノルマ達成による成功報酬を合わせると手取りで 、、、このくらい」
一枚の紙を掲げ、再び笑顔に戻った。
そこに明示されてた金額は俺が得ていた給料のザックリ二倍強。
「は、、、」
最初のノルマは買い物。
「はいっ! わかりましたっ、
よろしくお願いします!」
断る理由なんかなかった。
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