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BAR Blanche
そのBARは、寂れた歓楽街の端っこに、ひっそりと佇んでいた。
白を基調とした簡素な壁に、外観とは不釣り合いの重厚感漂う黒いアーチ型の扉が一つ。その上には、『BAR Blanche』という内照式看板が、青白く光っている。
こんな吹雪の日には、体感温度が五度くらい下がりそうなその看板を横目に睨むと、男は目の前の扉を引いた。
――カランコロン。
期待通りのドアベルの音と共に、まるで別世界に瞬間移動したかのような暖かい空気が、冷え切った男の身体を包む。
「いらっしゃいませ」
絹のような滑らかな声が、男の耳に染み込んだ。
「水割りを一杯」
コートの雪を払いながら、男はカウンターに向かって声を掛けた。
「かしこまりました」
バーテンダーの女は僅かに笑みを浮かべたあと、後ろの棚からウイスキーのボトルを取り出した。
男はコートを脱ぐと、四つしかないカウンターチェアの一つに腰掛けた。
外観同様、白を基調とした店内には、カウンターの他にテーブル席が二つ。白い大理石調のテーブルには、黒いベルベットのスツールが四つずつ配置してある。
無駄な装飾は一切ない。カウンターと対峙する壁に、大きな絵画が飾ってあるだけだ。
誰が描いたかわからないその雪山の絵を見ていると、「お待たせしました」背後から、絹の声が流れてきた。
「ありがとう」
琥珀色のグラス越しに、男はバーテンダーの顔をこっそり拝んだ。
歳の頃は二十台。肌の艶からすると前半だと推測されるが、落ち着き払った黒目がちの双眸からは、後半にも見える。
バレッタで一つに束ねられた長い髪からは所々後れ毛が溢れ、白くて細い彼女の首を艶っぽく装っている。
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