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1 メグル
白を基調とした明るい部屋に並ぶ、いくつもの大きな鏡。ドキドキしながら腰を下ろしたふかふかの椅子がくるりと回って、ぼくは鏡の中の自分と対面する。もしゃもしゃと絡まった天然パーマの黒髪は、勉強に没頭している間にすっかり伸びてしまった。
分厚い前髪の隙間から見えるのは、爽やかな笑顔を浮かべたお兄さん。
「本日はご来店ありがとうございます。スタイリストのトレイです。今日はどうされますか?」
「…カットと…カ、カ………」
「カット、とか?んと、カットでいいのかな?」
「いや…えと…カ、カットとカラーを……お願いします。ミ、ミ…。」
「…耳?」
「いや…その、ミルクティ…色でっ。あ、あ、あ、明るいベージュぽい色っていうか!ざ、雑誌で見たんです!その、ふんわりしてそうっていうか、優しそうで、笑顔が可愛くって、話しかけやすそうな、イケてる男の子!そ、そんな感じでっ、お願いしまっす!!」
フー。フー…。よっし!言い切った!今日は早めに口輪筋のエンジンがかかったぞ!
トレイ兄さんはちょっと目を見張った後、よし、オレに任せて!と鏡越しに言ってくれた。
あぁっ!イケメン!笑顔がまぶしくて目がつぶれるよぅ!このくせっ毛を生かして、とかブリーチを先にして、とか熱心に説明してくれるけど、キラキラの笑顔がかっこよくて、全部耳からすり抜けてく。
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