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題:8
「すいませんイーさん。俺、熱くなっちゃって…この女の人の事忘れてました!」
キュウが申し訳無さそうに謝ってきた。
もうイイでもイーでも関係ない。このゲームが終われば他人だ。と、僕は割り切ってみるが、やっぱりイントネーションは気になる。
「気にするな。大したことじゃない。」
ドアの奥は通路が続いていて、大きな扉の前で他の全員が待っていた。
「遅くねー?なんか人増えてるしよぉ。」
金髪の不良Aが文句を言うが、僕は気にしていない。それより、後ろの圧迫感が凄い。
セミロングの髪の爽やかな匂いも勝手に鼻腔に入ってくる。
「あ、扉開きましたよ!」
西洋の城門のような大きな扉がゆっくりと開いていく。費用、幾らくらいだろうか。
「ニヤけるなイー。」
「ニヤけてない!何だお前は!」
あぁ、ストレスが溜まる。何処かでカルシウムが摂取出来るといいんだが。
舞台は一転してだだっ広い平野になった。そしてその中心には巨大な建造物。
「おお、学校だね。それも廃校。デスゲームにはピッタリだ。」
エイルが3階建ての校舎を見上げて言う。何処にでもあるような、古ぼけたボロボロの校舎。だが、昼間だというのに人気は無く、それがまた不気味さを演出していた。
「流石にうちの学校じゃないね。」
「うん。見た目も全然違うし…」
ケイとショートヘアーの少女が話している。
ピンポンパンポーン。
アナウンスの合図であるこの音も聞き慣れてきた。
[生徒のみなさーん!まずは校舎にお入りくださーい!]
このスピーカーから聞こえてくるテンションの高い女性の声は愁井さんだ。義父さんの会社の人で、会う度に僕をデートに誘って義父さんに怒られている。
だが今日は、彼女のアナウンスが陰鬱な空気を吹き飛ばすに相応しい。本来は相応しくあってはいけないんだろうが。
「さっきとは違う人だ。複数犯という訳か。予想はしてたけどね。」
未知の世界に対してきわめて冷静にエイルは呟いた。彼女は強いな。
[ほらほら、死にたくなければ早く入ってくださいねー。]
先程の男のようになることを恐れ、皆は次々と古びた校舎の中へと入っていく。僕も続こうとして、ふと愁井さんの顔が浮かんだ。
「…今度、一度だけ行ってみようかな。」
背中に女性を背負ったまま僕は呟いた。
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