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題:3
「なんスかコレ…本当の、デスゲーム…」
茶髪の少年がガラス壁に手を付いて呟く。ガラス壁からは下の湯気が立ち昇る海が見える。それにしても、義父さんはこんな大量の水を何処から仕入れて来たんだ?
「絶望してる地味男と考え事してる陰キャメガネ、暇なら手伝ってくれる?」
「地味男…!?」
「陰キャメガネ…!?」
少年と僕は同時に声を荒げた。
「そう、あだ名が嫌なら名前教えてよ。」
このフードの青年、フードの所為で分かりづらいが、よく見たら女だ。余計傷付く。
それに、こちらが信頼できる人間かどうかを試している。警戒したほうが良さそうだ。
「名前を聞くならまずは自分から名乗るのが常識だろう。あだ名は百歩譲って置いておくとして。」
「金城救っス!地味男じゃなくてキュウって呼んでください。」
少年が僕より先に元気よく答えた。今は僕が喋っていたんだぞ、邪魔をするな。
「…キュウね。僕はエイル。新岳エイルさ。そんで、陰キャメガネは?」
「陰キャメガネ…。僕は…イマイ タミだ。」
今までゲーム開始直後に名前を聞かれた事は無い。だいたい状況把握に勤しんでいたからな。
それに、ゲーム開始前に考えていた偽名が出てこない。仕方なく咄嗟に思いついた偽名を口に出す。
「ダウト。目が泳いでる。」
「っ…!」
この女…只者じゃない。今後僕の障害になるかもしれないな。早々に処分しなければ。
「さ、本当の名前を教えてよ。嘘吐いても意味無いよ。」
怖い顔をしたエイルが僕に詰め寄ってくる。ここで再び嘘を吐くのは信用を失う危険性がある。
「…御霊伊英だ。赤の他人に本名を教えたくは無かったな。」
「イー、僕にとって信頼できる協力者は多い方がいいんだ。きっと君達二人は頼りになる。あそこでガタガタ震えている女の子よりかはよっぽどね。」
エイルは壁際の女の子を指差した。それと、僕は外人じゃないから名前を伸ばすな。僕は“イー”じゃなくて“イイ”だ。
「そんなことないッスよ!彼女も落ち着けば力になってくれるはずっス。もしかしたら俺より頭良いかもしれないし。ねぇ君、名前を教えてもらってもいいかな?」
キュウが少女の前に片膝を突く。差し伸べられた手に少女は俯いたままだ。
「…え、無視ッスか!?」
「勇気を出してくれたキュウ君には悪いけど…退いてもらっていいかな。確かに力になるかもしれないし、僕が応対するよ。」
見兼ねたエイルがキュウの肩を掴んで少女から強引に引き離す。
「…誰ですか?」
「僕はエイル。未知の状況に不安になっているのは分かるけど、今は君の力が必要になるかもしれない。取り敢えず、名前を教えてもらっても構わないか?」
エイルは少女の横に膝立ちになって尋ねる。その声は真剣で、戸惑いながら声を掛けたキュウとはえらい違いだ。
「…は、波浪京です。話は何となく聞いていました。し、仕掛けを探せばいいんですよね!?」
顔を上げた少女のたどたどしい自己紹介に思わず頬が緩んでしまう。この年齢での参加者は珍しいからな。…結局は死ぬことに変わりはないが。
「そうだね。僕だけ先に出ても良かったんだけど、主催者の目的は僕らの全滅だ。どうせなら主催者の鼻を少しでも明かしてやりたい。ケイ、僕に協力してくれるか?」
ケイはこくりと頷いた。どうやらエイルには心を開いたらしい。相変わらず僕らには無関心だが。
「さぁ、謎解きの謎探しだ。」
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