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第1問 高校生クイズ決勝戦
正面から5台のテレビカメラが僕らを様々な角度から撮影している。レンズに反射しているのは、早押しボタンに手を置き、次の問題に集中している僕らと、ライバルチームの姿。
3人1組のチームだが、僕以外の2人はバッテンの書かれたマスクをつけて、回答権を封じられている。
舞台となる夜の新国立競技場に観客はおらず、巨大な観客席が見下ろすグラウンドの中心に組まれた、3人がけの解答席が2つと出題者席のみというシンプルなセットが決勝の舞台だ。
20数名のスタッフ達が、決勝のライバルである灘高校クイズ研究部と、誰も決勝まで来ると信じていなかったうちらのチームの戦いを、ヒリヒリするような緊張感をもって見守っている。
太陽は完全に沈んでいるのに、やたらと暑い。夏服のシャツの脇や背中が肌に貼りついて、解答ボタンに置く手も汗で滑りそうだ。季節のせいもあるし、四方から照らされる強い照明のせいもあるし、緊張のせいもある。
「……………」
ふと横目で、灘高校の解答席を見る。ガリ勉眼鏡が2人に、イケメン1人。ほぼ同い年のはずだが、大人顔負けの知識を持つ、本物のクイズチャンピオンの風格がある。
偏差値でいったらウチの高校と灘なんて雲泥の差があるが、恐らくこの収録を見るであろう視聴者の大半が、ジャイアントキリングを望んでいるはずだ。
解答席の右斜めにある出題席から、MCの男性が煽る。
「次の問題に正解したチームが優勝となります。歴史と伝統の灘高校、連覇なるか?それとも、香川からの刺客が奇跡の下克上を成し遂げるのかっ?」
クイズに不正解することは有り得ない。答えはもう「分かっている」。あとは不自然に思われないように、早すぎず遅すぎないタイミングでボタンを押し、さも瞬時に思い付いたように答えるのだ。
「参りましょう!問題!」
MCが歯切れよく言い、SEが流れる。僕の耳元に、僕にしか聞こえない声が囁く。
「答えは、ニホンザル」
MCが問題を読み始める。
「学名を『Macaca……」
僕と灘の主将が、ほぼ同時に解答ボタンを押し込んだ。
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