想う

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「彩花、遅刻するよ?」 「わ、わかってる」 茜は昨日、何もなかったかのように いつもと変わらない様子だった。 あのキスは一体何だったのか…… 「あ、挨拶の1種とか…??」 「え?」 まずい、心の声が漏れてしまった 「何も無い!あ、チャイム鳴るよ」 「走ろ」 バタバタと慌てて教室に入る。 「…あれ?誰もいない」 「…あ、今日アレだよ。体育の日」 「あ、そっかぁ…お母さん言ってくれればよかったのに」 ため息混じりに言って席に座る すると茜が私の髪を優しい手つきで触る。 「ひゃっ…な、何?」 「…久しぶりに髪、切ってあげようか?」 「え、いいの?」 「昨日泊めてくれたお礼。」 そう言ってまた優しい手つきで触る。 「じゃあさ、茜とお揃いにする」 「…私と?」 「うん。」 そう言うと茜は微笑んでポーチからハサミを取りだした。 チャキチャキとハサミの音が静かな教室に響く。 「あ、のさ…なんでキスしたの?」 そう聞くと茜はハサミを動かす手を止めた。 「好きだからだよ」 「それってどういう……?」 「私ね、彩花のこと友達としては見れなかった」 「……え?」 「もちろん親友とは思ってたよ。でもね、意中の人っていう見方の方が多かった。」 そして茜が後ろから優しく、包むように抱きついてきた。 「彩花のことが、誰よりも1番好き。今もこの先も、ずっと_」 「ちょ、ちょっと待って。茜の気持ちは分かったよ、でも…私は恋愛対象としてはやっぱり見れないの」 「……そっか。変なこと言ってごめんね」 そう言ってまたハサミを動かす。 教室がまた、ハサミの音だけになる 早くこの沈黙が終わらないかと心の中で思っていた。
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