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ここで絆され優しくしてはいけない。これは昔から弟の常套手段なのだから。
泣きそうな顔をすれば弟の回りには人が集まり、いつも弟の思うままになってきた。要領が悪かった雪は弟の狡さを誰よりも見てきた。
ここで甘い顔をして付け上がらせるわけにはいかない。
「この話は終わりだ」
すると拒絶が効いたのか、弟が俯いた。
「雪は俺のこと嫌い?」
嫌いとか嫌いじゃないとかそういう問題ではない。
少数理論だとは思うが、男を好きになるということはわからなくもない。
人が人を好きになることに理由はないと思う。でもよりによって茨道と泥道を一挙に歩こうとするのか。
『馬鹿野郎』
雪は心の中でこの一言を弟へ突き付ける。
居心地の悪さに耐え兼ねとりあえず洗面所で顔を洗おうと立ちあがった。
「どこ行くの?」
すると弟の長い腕が雪に巻き付き、長い指先がスウェットの肋骨付近を這い纏わろうとする。
「おいっ、離せ」
「イヤだ。もう後に引けない」
弟はいきなり雪の急所を握り込もうとした。
「おとなしくして」
そんなことを言われておとなしくなんかできるわけがない。
「ちょっ、まっ」
「待たない」
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