提督の決断

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

提督の決断

「本艦はこれより前人未到、未知の海域に突入する!」 提督の号令、そして打てば響くようにクルーの返事がブリッジを満たす。 「「「オーッ!」」」 高速戦艦サスケハナは同級のネームシップである。黒光りする無骨な巨体はそれだけで荒波を圧する迫力がある。 続いて、僚艦のポーハタン、サラトガ、プリマスが白波を蹴立てる。 青くどこまでも澄み切った空をみるみる黒煙がけがしていく。遥か水平線には敵地の港が見えかくれしている。 カナガーの国、ハーマンは世界有数の貿易港だ。ただ、万人に門戸を開いているわけではない。 隣接するエドワード、ミート、バランギを含む一帯はフーゾという島国の首都圏である。それだけに警戒が厳しい。 とくにバランキとハーマンは奥まった湾の両翼をなす要衝だけに、守りが固い。 「ランドマークタワーが射程内に間もなく入ります」 ボーハタンが指示を仰いできた。ハーマンの象徴そのものでもあるランドマークタワーには最新鋭の眼が備わっている。 「ようし!景気づけに一発ぶちかましてやれ」 提督は戦意高揚もかくやとばかりに命令を飛ばす。 「OTHレーダー波帯域に感あり!」 「カナガー海軍の周波数と合致します」 「やっちまいましょう!」 電子戦術士官がはしゃいでいる。しかし、提督は眉をひそめた。 「待て、簡単すぎる」 百戦錬磨の勇士ガルブレイス・マシュウは鋭い嗅覚の持ち主だ。ランドマークタワーは索敵の心臓部だ。いくらメリケンの最新鋭ブラックステルスフリゲートとはいえ、接近を許すまい。 罠か。しかし、相手の企みを知るためには積極的に撃って出るしかない。 「いや、殺れ!」 ためらいもなく、安全カバーが押し割られ、必殺の先手が放たれた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!