出会い(両国)

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「ねぇ、ちょっと」 いきなり新しく席替えで後ろになった奴に背をつつかれる。 たしか、阿佐ヶ谷さん。 「はい?」 振り返ると顔を顰めた阿佐ヶ谷さんと目が合う。 感じが悪い。 でも、美人だ。 「消しゴム忘れたの、貸して」 おいおいお嬢さん、それは人に物を借りる態度じゃない! しかし僕はあっさりと絆されちゃって筆箱から消しゴムを探し始めた。 どうしよう、一個しかない。 「一個しかないの?」 使えないわね、とでも言いたげに溜息をおつきになる阿佐ヶ谷さん。 知らんわ、忘れた君が悪いだろう!? 「……割ってあげようか」 定規を取り出して消しゴムを割る素振りをしてみせる。 自分でもお人好しというか、甘い対応で驚く。 「……半分ね」 図々しいな、こいつ。 そう思いつつ大人しく半分に切り分ける。 比較的新しい消しゴムは、平和に二個に分けられた。 「はい、どうぞ」 渡すと嬉しそうな顔をする。 おや、可愛げがあるじゃないか。 思わず頬が緩む。 「ねぇ、なんて名前なの?」 は? いや知らなかったのかよ。 「両国」 さくっと苗字だけ答えると、ふーん?というような顔をして、小首を傾げる阿佐ヶ谷さん。 控えめに言って可愛い。 ……これは、厄介なことになりそうだという予感はこうか不幸か的中することになる。
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