好意の重みを知るがよい

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彼女がそれらを受け取った時にはすでに日が暮れていた。大荷物を抱えながら、二人は帰路へ着く。 「よかったじゃないすか先輩、こんだけあれば食糧難も一件落着ですね。あと米めっちゃ重いです」 「私もまさか米この量でもらうとはほんとに思わなかった。お前がついてきてくれてよかっ……なんだその不満そうな顔は」 「あー、いや」 米運ばせるべきじゃなかったか、いやでもこいつ一応志願してきた雑用係…あ、違う。助手だしな。穂波は口に出さずにいろいろ考えていたが、気にせず壬生は話し出す。 「…先輩のことだからどうせバイトもそつなくこなして終わりだと思ってて、結局こうなるのなんか全然予想外だったんですけど……バイトの、途中で」 急に歩くのをやめた壬生につられ、穂波も立ち止まる。二人の端正な顔が、白い街頭に照らされる。 「このままうまくいかなかったら、先輩のこと家に呼ぶ口実できたのになと思って」 シチュエーション、顔面、台詞まで全て完璧で、相当な殺し文句であるその言葉に、 「…?別に、呼んでくれたら遊びに行くぞ」 と、彼女は戸惑うこともなくそう告げた。 ___メディアからの興味の好意。今回突撃してきた若者たちのような、第三者からの憧れの好意。親しみを込めた商店街の人々からの好意。__はたまた、現在猛アタック中の一途な青年の好意まで。 彼女は気付くことがない。今回の資金繰りの件についたって、別に何を言われるでもないと思うほど、彼女はすでに周りから好かれているのに。彼女はことごとくそれに気づかない。 この天才は、人の好意にどこまでも鈍感なのだ。 「…いやまあ、なんとなく予想はしてましたよ」 「何をだ」 「なんでもないです。……天は二物を与えずってやつなんですかね」 「与えてもらえなかったのなら自らで掴み取るまでだぞ」 「………そうします」 やがて二人は歩き出した。荷物の重さに耐えきれず、早足で。 ずしりと重たい手元の荷物の感触は、そのまま彼女に向けられた人望や好意に比例しているのだろう。彼女は本当に罪作りな人だと思う。 今彼女が抱えているのは、彼女宛の好意が目一杯詰まった、美味しいご飯。 「壬生も食べていくか?」 「え、俺もいいんですか」 「いいんじゃないか?」 なのにそれを、自分以外に譲ってしまうのだ。 彼女は手に持ったそれの重みを、本当に理解しているのだろうか。 そしてそれを、どんな感情で食べるのだろうか。 「じゃあ、ご同伴に預かります」 壬生は重い荷物を抱えながらそう思った。 (召しませ、好意)
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