好意の重みを知るがよい

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数十分後、彼女の目の前には給金ではなく__両手いっぱいに持てるかわからないほどの、食材や惣菜があった。 それを持ってきたのはここの商店街の、彼女にも顔馴染みのよくある面々。ラインナップは米の袋、何軒目かに尋ねた青果店のビニール袋に入った果物、最初に行った八百屋の野菜で作られた煮物などなど。 「はいこれ!あげる!」 「本気でおっしゃってます!!??!」 「おっ、ようやく年相応の顔じゃん」 穂波は動揺した。人前のためきちりと整えていた顔面が年相応と言われるまで崩れてしまうくらいに。 お供物のように積まれたそれに彼女は大変混乱している。だが流石天才、常人より頭の治りは早かった。彼女はなんとか言葉を紡ぎ、自分の意思を伝えんとした。 「な、何もできてないのに、もらうわけには」 「できてるとかできてないとかじゃなくて!そんなこと考えなくて良いのよ、できる子とはいえまだ年齢的には十分子供なんだから。それにこれはみんなから穂波ちゃんへの好意なんだから、大人しく受け取ってくれると助かるなあ」 好意。形のないそれをこの供物の担保とするのか。 「価値あるものは物々交換で」がモットーの彼女の頭は、許容限界の論理にぷしゅうと煙が出そうになる。 「でも、あの、えと」 「あー、この人ちゃんとした理由ないとちょっとバグるんですよ。貸し借りが苦手みたいで」 「あら」 「貸し借り?」 声を上げたのは目の前のお供物を持ってきてくれた一人である、八百屋のお母さんだった。 「穂波ちゃんは私たちにくれたじゃない、いろんなもの。翻訳機に義足に発電機!そんなのぜんぶプラマイプラスで帰ってくるわよ」 「そうそう、みんな助かってるんだよ!天才様はなんでもないことみたいに言ってくれるけどね」 「ウチはまさか発明家さんだとは知らんかったから、どこからこんなもん持ってきてくれるんだと思っちゃいたけど」 「あ、あう」 試作初号機の音声認識の翻訳機をあげた八百屋のお母さん、超小型のバイオマスエネルギー変換機をあげた鯛焼き屋のお爺さん。 彼女は必要とする者には相応のものを渡していた。それは物々交換でもなんでもなく寄付である、と考える彼女はいちいちそのことを覚えてはいないだろうが、彼女は彼女が自分で思っているよりずっと周りから感謝されていたのだ。 天才の頭脳をフルに発揮したそれらを等しく皆に分け与えて、その行いが当然だと言う顔をして、彼女は驕らず生活してきたのだ。好かれないわけがない。 そのため彼らの恩返しの圧は強かった。 「そ、そういうことなら、いただきます……」 そして普段受けることのない強めの押しに少々バグった天才の思考は、完全に陥落した。
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